« 映画『ナイト・ミュージアム」で楽しまナイト | トップページ | ペコちゃん焼きのお客様へ―もう少しお預けです »

2007年3月23日 (金)

「神の子どもたちはみな踊る」を読んで

今日は村上春樹の短編集の紹介です。Photo_24 「神の子どもたちはみな踊る」(新潮社文庫)

阪神大震災後の話をゆるやかにつなげたショート・ショート。「東京奇譚集」 を読んでから是非読もうと思っていたもの。題名が謎めいて惹かれました。

Frog

そして合わせて読みすすめたのがこの本の翻訳After the Quakeです。こちらは地震というキーワードをタイトルにもってきていています。翻訳の場合は必ずしも原題とは違うものの一例ですよね。

寄り道になりますが、英語の多読、速読をするのに日本の好きな作家の翻訳を読んでみるというのも一つの効果的な方法だと感じています。もう、好きな話だからバンバン読めます。特に村上春樹の翻訳は、読み進んでいるうちにまるで英語の方が原書じゃないかと思える瞬間があって、レイモンド・カーヴァーが村上春樹化して英語で書いたんじゃないかと思ったりして。

そう思わせるのは、村上文学の無国籍性と文体の英語っぽさにあるのか、それとも翻訳家の力量にあるのかわかりませんが、(たぶん両方)是非村上翻訳文を体験してみて下さい。だって、アマゾン(US)のサイトから無料で「UFOが釧路に降りる」を何ページか読めるんですよ!(日本のアマゾンではなぜか読めません)→After the Quake

村上文学の翻訳家は何人かいるようですが、この本はジェイ・ルービンという方が訳していて、非常に優れた翻訳だと思います。

さて話を元に戻して、それぞれの短編について。

*UFOが釧路に降りる(ufo in kushiro)

地震の後に妻に出て行かれ、自分を見失う男の話。この男が釧路に運ぶ箱は空っぽ。結末に描かれる「自分が圧倒的な暴力の瀬戸際に立っていることに思い立った。」という文章は俊逸。彼の箱が暗示する自分の空虚さは今の社会のテロにつながる心の暗闇を意味しているような気がします。

*アイロンのある風景(landscape with flatiron)

たき火を焚く男とそれを見つめる女の話。この話に出てくるジャック・ロンドンの『たき火』(原題To Build a Fire)をたまたま最近読んで、その描写の生々しさがこの短編をとても身近なものにしたような気がします。この「アイロンのある風景」の男は家族を捨ててきたらしい、影を持つ人で、たき火に込められた炎に、燃えつくし破壊する力と心身を温め癒す力を感じているのでしょう。そこには説明の出来ない矛盾があるのですが。

*神の子どもたちはみな踊る(all god's children can dance)

神の子だと言われて育った青年が父を求めて迷い、そこで何かにさとされるように踊るというストーリー。この話の中で青年が「僕らの心は石ではないのです。石はいつか崩れ落ちるかもしれない。…でも心は崩れません。僕らはそのかたちなきものを、善きものであれ、悪しきものであれ、どこまでも伝えあうことができるのです。神の子どもたちはみな踊るのです。」と訴えます。「」や「ダンス」は村上春樹が好んで用いるモチーフ。「ダンス・ダンス・ダンス」が読みたくなってきます。

*タイランド(thailand)

傷心の女医がタイで過ごした休日を描いた話。ここでも主人公の私が「白い堅い石」について語るシーンがあります。そういえば、「少年カフカ」でも石は重要でした。ドライバーのニミットが不思議な魅力で、6篇中でも特にお気に入りのストーリーです。

*かえるくん、東京を救う(super-frog saves tokyo)

等身大のかえるくんが、みみずくんが起こす地震から東京を救ってくれる話。奇想天外ですが、一番村上春樹節が出ている短編のような気がします。このかえるくん、なぜか本をよく読んでいて、「ニーチェが言っているように」とか「ジョセフ・コンラッドが書いているように」なんて出てくると思わずニンマリしてしまいます。

*蜂蜜パイ(honey pie)

ラストは男と女とそして家族の再生の話。地震に脅える子どもを守るため、男は物語を想像します。物語の力を借りて、彼は女をそして彼女の子どもを護る決心をします。

この短編集は根底に流れる圧倒的な自然の暴力、地震というキーワードを絡ませながら、最後には虚無や絶望からの一歩踏み出そうとする人を描いていると思えます。ズーンと沁みていくような読後感でした。

今日の言葉

These six stories, all loosely connected to the disastrous 1995 earthquake in Kobe, are Murakami at his best.

(この6篇すべてが1995年に起こった神戸の破滅的な地震とゆるやかに関連していて、村上春樹の傑作である。―アマゾンの評から)

|

« 映画『ナイト・ミュージアム」で楽しまナイト | トップページ | ペコちゃん焼きのお客様へ―もう少しお預けです »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/114487/5083340

この記事へのトラックバック一覧です: 「神の子どもたちはみな踊る」を読んで:

« 映画『ナイト・ミュージアム」で楽しまナイト | トップページ | ペコちゃん焼きのお客様へ―もう少しお預けです »