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2007年11月11日 (日)

映画「ゴスフォード・パーク」(Gosford Park)ネタバレあり

Photo_2  ゴスフォード・パーク (ユニバーサル・セレクション2008年第1弾) 【初回生産限定】

販売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
発売日:2008/01/12

なんとこの映画、3回続けて観てしまいました。自分でも「よくやるな~♪」ってあきれてしまうのですが、繰り返し観ても興味がつきません。

1回目は普通に観て、2回目はロバート・アルトマン監督のコメンタリーで、3回目は脚本のジュリアン・フェローズのコメンタリーで観ました

アルトマン監督は、当初アガサ・クリスティ原作の映画をつくろうと思ったそうですが、全ての作品が既に映画化、ドラマ化されていることを知り、イギリス物で、アガサ・クリスティ風の趣向を凝らした映画をつくることにしたそうです。(そういえばこの映画の主要人物、伯爵夫人を演じるマギー・スミスはアガサ・クリスティの「ナイル殺人事件」(1978年)に出てましたっけ。今回も、マギー・スミスはもう存在するだけで画面が締る貫禄でした。)

この映画、ただのサスペンスと一味も二味も違うのが、さすがアルトマン監督。イギリス階級を階上の人―upstairsつまり召使を使う貴族と、階下の召使たち―downstairsと描き分け、新米メイド、メアリーの視点からそれを見せるというひねり技。そこで起きる殺人事件もそのメイド役が探偵もどきを演じ、観客は殺人の動機に意外なドラマを知ることとなります。そして・・・犯人はたぶん捕まらないだろうという予感を秘めて終わります。うーん、「アルトマンの映画には結末を描きすぎない魅力がある」と脚本のジュリアン・フェローズも言っていますが、観客に観終わった後の余韻をころがす楽しみ与えてくれます。

はじめに観た時は、貴族たちの退屈な生活、お金の無心に明け暮れるやりとりが、執事やメイドのさりげない視点から見ることのできる面白さに魅せられました。そして偉そうにしている貴族たちは実は働き続ける召使がいてこそ、生活ができるというおかしさと悲しさもありました。なぜって、召使がいないと貴族はビンのふたも開けることができず、朝ごはんも着替えもできないんですから。ヤレヤレ。

召使の生活も克明に描かれ、アイロンがけや靴磨き、そして入念なテーブルセッティングとエネルギィッシュに働く様子が描かれます。ご主人様がとる優雅なディナーの前にあわただしく頂く夕食は、しかし階上と同じ論理の席順で、仕えている主人の力関係を反映したものです。

そんな晩餐中に起こる殺人事件の背景にはマッコードル卿(ハリー・ポッターのダンブルドー役のマイケル・ガンボン)の女癖の悪さが大きく関わり、2人の姉妹の悲劇と2人の親子の別れが明かされます。女中頭、ミセス・ウィルソン役のヘレン・ミレンと料理長、ミセス・クロフト役のアイリーン・アトキンスのラスト・シーンは何度観ても胸が締めつけられました。

アルトマン監督のコメンタリーによると、彼の細部のこだわりは半端ではありません。階下での窓ガラスもあらたに昔の手法で製造し、歪みを持たせたものにしたり、伯爵夫人の客間の壁紙をフランス製の手書きのもの(白い背景に上品な花がゆったり描かれていてすごくヨーロッパ的)に変えたりの念の入れよう。ライトの使い方もフェルメールの絵のように明暗がくっきりしているようで柔らかく温かいんです。光よりも影の使い方がうまいんでしょうね。それから事件のキーになる毒薬がなんといろいろな場面で登場していたという遊び心もあったんです。「ああ、ここでもPOISONって出ている」と何箇所も発見。

オースティン好きの私には、イギリス貴族のこまごまとした習慣が面白く、脚本家のジュリアン・フェローズのコメンタリーも薀蓄の宝庫でした。貴族は「出されたものは文句を言わずに頂く」というのもルール(文句を言うのは育ちが悪い証拠なんだそうで、アメリカのプロデューサーがヴェジタリアンで食事に注文をつけたのに、料理長が激怒するというところも彼のルール違反に頭にきたのでしょう。)。朝食をベッドで食べられるのは既婚の女性で、未婚の場合はダメというのもルール。紅茶を飲む時、上流階級はミルクを後に入れるのもルール。生活能力のない貴族も、何かとルールがたくさんあって大変なんですね。

こんな習慣を知ってみるとますます味のある映画になってきます。

どの役者も芸達者で「皆が主役」という群像劇。いろいろなドラマが何層にも重なってそれぞれの物語を紡いでいます。その中でもメイド、ドロシー役のソフィー・トンプソンが、酒好きな執事に一途に恋する控えめな役どころをきっちり演じているのが印象に残りました。なんと、彼女をあのエマ・トンプソンの妹だそうです。エマ・トンプソンは「いつか晴れた日に」でお金のない上流階級の娘、エレノア役を演じ、「日の名残り」ではダーリントン・ホールの女中頭、ミス・ケントンを演じています。彼女のイギリス物は見逃せない磁力がありますよ。うふ、大好きですから。いや~、姉妹ともに驚きのスゴイ演技です。

今日の言葉

a recognition of truth (真実の認識)

アルトマン監督が繰り返し言っていた言葉です。映画の中で役者が間違うのを待つというのも、この「真実の認識」を得たいという思いがあるからでしょう。

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コメント

ほんとに細部までこだわった、素晴らしい映画でしたね~♪

階上の人たちと階下の人たちの描き分けも、本当に上手かったし、サスペンスの部分も押し付けがましくなく、さらっと(?)起こったと言う感じで、でも意味深長で。

そうかそうか、あのベジタリアンだから云々のところは
そういうことだったんですね~。
文句言わず、出されたものは食べる・・と。
なかなか深いですね~。
これは見れば見るほどいろいろ楽しめる作品ですね♪

私もまた見てみようと思っています♪

TBどうもありがとうございました♪

投稿: メル | 2007年11月13日 (火) 18時56分

メルさん、ご来店ありがとうございます。調子に乗ってたくさんTBさせていただきました。(本当はもっとTBしたかったんですが・・・)メルさん、ご紹介の「ピアノ・レッスン」も大好きな映画で、わたしの中では生涯ベスト10に入る映画の一つです。

また、アルトマン監督の作品を観ていきたいと思います。次は何にしようか、面白そうな作品はまだまだありますね♪

投稿: コニコ | 2007年11月13日 (火) 21時21分

へえ~~彼女はエマ・トンプソンの妹さんだったのですか!
エマ・トンプソンはわたしも大好きな女優さんです。
「お気に召すまま」だったかな??
ケネス・ブラナーとやっているシェークスピアの映画がすごくおもしろかったです。

そういえば、観たときに、「クリスティーっぽいけど、違う視点だな~。これを観てからクリスティーを読むとますます面白くなるだろうな」と思ってたのですが、やっぱり関連があったのですね。

あの毒薬がいろんなところから出てくるシーンはほんとうにわらっちゃいました!

投稿: ひらもこ♪ | 2007年11月15日 (木) 11時00分

ひらもこ♪さん、記事、読んでくれてありがとうございます。また遊びに来てくれるといいなって思っていたんで、思いが通じてとっても嬉しいです。だって、こんなに面白い映画、やっぱり観た人と盛り上がりたいじゃないですか♪
それと、エマ・トンプソンのシェークスピアの映画は「空騒ぎ」ですよね。実はわたしも前から気になっている映画でまだ観てません。なんとこの映画のオープニングがエマ・トンプソンの"Sing no more, ladies"という詩の朗読から始まるということをラジオで聴いたので、期待大です。ひらもこさんのオススならばやはり今度さがしてみます。
またオースティンの記事、近々書きますからご贔屓にしてくださいね♪

投稿: コニコ | 2007年11月16日 (金) 08時23分

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