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2007年12月 8日 (土)

「村上春樹にご用心」の内田樹にご用心

村上春樹にご用心 村上春樹にご用心

著者:内田 樹
販売元:アルテスパブリッシング

内田先生の本は面白い♪

どこがと問われると―ヨドミなく”さくさく”っと読めてしまうのです。ちょっと玉手箱のようなところがあって、半分丸め込まれているんではないかと半信半疑になりながらも、楽しく読み続けられるのです。あ~、またしても内田先生の本をレビューしたくなってしまいました。拙ブログ「書籍部門」最多レビューじゃないかしらん。

しかしてそのタイトルは「村上春樹にご用心」。内田先生には本当にご用心です。ハイ♪(全面的ホメことばで~す)

内田先生は「太宰治と村上春樹」の項で、2人の小説の冒頭に仕掛けられた読み手ひとりひとりへの「めくばせ」のことを書いています。

「これ、実は君だけのために書かれた物語なんだけれど、それにもう気づいてくれたかな」?すぐれた書き手は必ず物語が始まってしばらくしたところで、このような「パーソナルな」メッセージを送ってくる。ものが「パーソナル」なわけだから、「読者のみなさん!」というような大上段に構えた呼びかけのかたちはとらない。それがある種の限定された読者あてのコールサインであり、不注意な読者は見落としてしまうような仕方で発進されるメッセージだけが読者にヒットするのである。(82ページ)

ナルホドね~。この技は実は内田先生もとてもお上手で、「これ、実は君だけにおしえちゃうんだけどね」みたいなことろが面白いです。この本の冒頭も「はじめに―ノーベル文学賞受賞のヴァーチャル祝辞」だったのですから。「ヘェ!?村上春樹がノーベル文学賞を受賞したって!?」なんてことで引き込まれるわけです。(近い将来、この祝辞を新聞でみる日が来ることを祈ってますが)

おっと道草しましたが、本の表紙の人、何をやっているかわかりますか?雪かき。冬が来て雪が降ると降る雪は風情がありますけど、日常生活では即、「雪かき」が必要になりますよね。この仕事、誰かがやらなくてはならないものですが、家事と同じようにあんまり人から感謝もされず、対価も支払われない地味な仕事。

『ダンス・ダンス・ダンス』で、「僕」は自分の仕事を「文化的雪かき」みたいなものだと説明している。雪が降ると分かるけれど、「雪かき」は誰の義務でもないけれど、誰かがやらないと結局みんなが困る種類の仕事である。プラスカ加算されるチャンスはほとんどない。でも人知れず「雪かき」をしている人のおかげで、世の中からマイナスの芽(滑って転んで頭蓋骨を割るというような)が少しだけ摘まれているわけだ。私はそういうのは、「世界の善を少しだけ積み増しする」仕事だろうと思う。(205ページ)

「神の子どもたちはみな踊る」の中の「かえるくん、東京を救う」のかえるくんもそんな雪かきをしてくれたんだと納得しました。

この本で他のコニコなりのキーワードは、「倍音」。「倍音というのは基本周波数の整数倍の周波数の音のこと」(105ページ)だそうです。この響き方の倍音経験が実は芸術的感動と深く結びついていて、文学の喜びもそこに関係しているという内田先生の展開も慧眼です。

そして村上春樹が倍音を出す技術を知っている作家であるという予感は、村上愛読者が「こんな話をわかるのは私一人だけだ」という選ばれた確信に裏付けられます。

他の人々が単なる指示的機能しか認めないセンテンスに、私だけが「私あてのメッセージ」を聴き取るということが倍音的エクリチュールの構造なのである。(113ページ)

村上春樹の文体(エクリチュール)にはシンプルでストレートですが、そこにこそ倍音を生み出すものがあるのでしょう。モーツァルトの音楽がそうであるように。

最後のキーワードは「欠落」。ここでの展開は、「どうして村上春樹はこれほど世界的な支持を獲得しえたのか?」から拡がっていきます。

私たちが世界のすべての人々と「共有」しているものは、「共有されているもの」ではなく、実は「共に欠いているもの」である。その「逆説」に批評家たちは気づかなかった。(略)私たちが「共に欠いているもの」とは何か?それは「存在しないもの」であるにもかかわらず私たち生者のふるまいや判断のひとつひとつに深く強くかかわってくるもの、端的にいえば「死者たちの切迫」という欠性的なリアリティである。(183ページ)

私には「欠性的なリアリティ」というものがよくわからないが、異界の死者たちとのかかわりを無意識の中から浮かび上がらせることなのかと考えています。

最後に、内田先生と同じく「村上春樹さん、もっともっと書き続けてくださいね。(翻訳も)」内田先生もです!

今日の言葉

overtone (倍音または上音)基音より振動数の大きな音

undertone (低音)基礎音下の倍音

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コメント


もう読みました いいですね

投稿: 世界樹の迷宮同人誌 | 2011年2月25日 (金) 10時26分

世界樹の迷宮同人誌さん、コメントをありがとうございました。気に入って頂けたようでよかったですhappy01

投稿: コニコ | 2011年2月26日 (土) 09時06分

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