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2008年3月25日 (火)

「パブリッシャー―出版に恋をした男」

パブリッシャー―出版に恋をした男

先日聴きに行った講演会「世界文学はこうしてつくられる」でご登壇いただいたトム・マシュラー氏の著書、パブリッシャー―出版に恋をした男(トム マシュラー著、晶文社)を読んだ。

有名な数々の本が作り出される瞬間の、なんとも言えない魅力的なエネルギーを感じさせる本だ。マシュラー氏の強烈な熱意―「申し分のない本を出版するには、作品そのものの利益のために、出版人はその作品にほれ込んでいなければならない。」(378ページ)という熱い思いに溢れている。

この本によると、新しい本のドラマは、たいてい彼の幅広い人脈から始まるのだが、その作品の良し悪しは一点、彼の直感で決まるのだ。作品の質をみる鋭さには驚嘆せざるを得ない。

ただし、多くの著者が変わり者だったり、一癖あるように、彼自身もかなり好き嫌いのはっきりした性格のようであることが文からも伺える。講演会の時にも質問によっては、呆れるほどそっけない答えをしたり、強いカリスマ性と同時に敵をつくってしまう癖の強さが同居している。

そんな彼と特に相性が良かったのが、「爆問」の太田さんの大好きなヴォネガット、そしてわたしのお気に入りのロアルド・ダールだったようだ。

ややゴシップ的だが、ヴォネガットの気の強い奥さん、ジル・クレメッツの逸話やマシュラー氏がうつ病で苦しんでいた時に送られてきたユーモアに富んだ手紙は、ヴォネガットの素顔をうかがわせてくれて、彼への親しみが増した。ヴォネガットが亡くなって1年になろうとするが、是非原書にも挑戦したいと思う。

Photo ロアルド・ダールに関しては、彼の本の大きな魅力となるイラストレーター、クェンティン・ブレイクとのコンビがすんなりできたわけではないことが書かれてびっくり。マシュラー氏の再三のすすめで、ダール氏がクェンティン・ブレイクの絵を気に入ったそうだ。今、私たちが当たり前のようにして読んでいるダール&クェンティン・コンビの本も、マシュラー氏のアレンジのおかげだと思うと彼に感謝せずにはいられない。ダール氏の死後、いろいろな本から作品を抜粋して「まるごと一冊ロアルド・ダール」という作品集を編集したのもマシュラー氏であり、この本からも、いかにダールとクェンティンのコンビが素晴らしいものであったかが実感できる。

Photo_2 この他にもマシュラー氏が大人向けの本だけでなく、子ども向けの本に情熱を燃やし、ジョン・バーニンガムなどの類まれな絵本作家を発掘しているがわかる。バー人ガムの「おじいちゃん」はわたしの最も好きな絵本のひとつだ。

余談になるがトマス・ピンチョンとマシュラー氏のつきあいも載っていて、ピンチョンという人物が実際にいることがわかって不思議な気がした。彼は写真も撮らせないような謎めいた作家だから、マシュラー氏が語るピンチョン氏がなぜかにせもののような気がしてしまうのである。

マシュラー氏のこの本は、400ページ近くある回想録だ。彼のエキサイティングな作家のと関わりも、最後の100ページ余りは筆の運びに少々疲れが感じられる。が、全体として、鋭い眼識の編集者による著書のリストは何よりも刺激的だった。

今日の言葉は「おわりに」からの引用です。

この本では、大勢の著者の作品を出版するときの興奮をお伝えしようと考えた。(中略)どの作品を出版するかが決まると、ひとつの仕事がはじまる。まず、出版を決めた者が確信したことを出版社の人間全員に伝染させ、それから世の中にも伝染させる仕事だ。(378ページ)

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