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2008年5月31日 (土)

原書「The Handmaid's Tale」

Handmaid今日で5月も終わり。すっかり月末は原書で読んだ本のレビューが定番になってしまいました。1月から読む読むといいながら積んでおいたThe Handmaid's Tale(邦題「侍女の物語」)をやっと読了しました。自分でももう寄り道するのも面倒になり、今月は絶対に読むゾ!と決めていたので、今月中に読み切れてホッとしました。

カナダ人の作家、マーガレット・アトウッドは2000年にブッカー賞をとり、日本でもずいぶん読まれるようになった作家です。このThe Handmaid's Taleは1986年に発表されたディストピア小説(ディストピアはユートピアの反対)です。ジョージ・オーウェルの「1984年」と比較されたりもしていますね。

さて内容ですが、Offredというhandmaid(侍女と呼ばれる子どもを産むことを強いられている女性)が架空のyouに語る自分の半生の物語です。実は彼女の本当の名前は最後までわからないのですが、このOffredという便宜的な名前が恐ろしいんです。なぜって、そのhandmaidが仕えるご主人の名前に、所有するという意味のofがつくからなんです。つまりhandmaid of Fred―フレッドが所有する侍女ということになるわけです。日本語でいうとたとえば「一郎の」とか「太郎の」というのが呼び名になるんですね。わ~空恐ろしい~

最初、このOffredが3つの違う時を語っているので混乱しますが、状況がわかるとかなり読みやすくなってきます。Offredが語る現在と、handmaidの訓練を受けている時、そしてthe time beforeといわれる現在の社会体制前の時代、この3つが交差するように語られます。

現在の状況がひとつひとつ細かく描かれ、隅々まで監視の目が効いている社会。読んでいるこちらまで思わず誰かに見られている気になります。監視を担当している部署は文字通りEyeとよばれています。この厳しい監視下、handmaidはどこにいても目立つお人形のように真っ赤な服を着て白い羽のついた帽子をかぶっています。

「1984年」でもお馴染みの逆説ことばが、出てきて気分が悪くなりそうなります。Salvagingという名の処刑儀式。本来のsalvageの意味は救済です。多くの政治犯が救済という名目で処刑されているのでしょう。

最後の付録のように書かれたHistorical Notesは英語がむずかしかったですが、これも学会や講演会でよく使われる英語っぽかったです。Offredの語る話し、つまりthe handmaid's taleの信憑性を問うという形をとっているのが絶妙です。真実かどうかを問うことでそこにリアルな語りの切なさが浮かび上がってきます。

20年以上も前に書かれたこの小説の世界に現実の世界が急速に追いついていっている不気味さがありました。日本の「産む機械」発言や先進国の出生率の低下、インドで起こっている「レンタル子宮」サービス(不妊に悩む世界中の夫婦のために代理母を提供するビジネス)など枚挙のいとまがありません。SFや近未来小説を好む人だけでなく、多くの人、特に若い人に薦めたい本です。

今日の言葉

My name isn't Offred, I have another name, which nobody uses now because it's forbidden.  I tell myself it doesn't matter, your name is like your telephone number, useful only to others; but what I tell myself is wrong, it does matter.  I keep the knowledge of this name like something hidden, some treasure I'll come back to dig up, one day.  I think of this name as buried.  This name has an aura around it, like an amulet, some charm that's survived from an unimaginably distant past.  I lie in my single bed at night, with my eyes closed, and the name floats there behind my eyes, not quite within reach, shining in the dark.  (The Handmaid's Tale p.84)

(わたしの名前はオブフレッドではない。まだ別の名前を持っている。今は禁じられているので使われない名前だ。名前なんてたいしたことじゃない、とわたしは自分に言い聞かせる。名前なんて電話番号と同じで、他人にとって便利なだけのものだ、と。でも、わたしが自分に言い聞かせることは間違っている。名前は重要なのだ。わたしはこの名前を、何かの隠し事のように胸のうちにしまっている。いつの日か戻って掘り返す予定の宝物のように。わたしはその名前を埋められているのだと考えている。その名前には特別のオーラがある。御守りのような、はるか昔から言い伝えられてきた魔よけのようなオーラがある。夜、シングル・ベッドに横たわって目を閉じると、まぶたの裏の暗闇の手の届かないところを、この名前が決まって輝きながら漂う。 (「侍女の物語」文庫157ページ、斎藤英治訳)

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