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2008年7月28日 (月)

「君が壊れてしまう前に」

君が壊れてしまう前に (角川文庫)

夏という季節はなぜか子どものころを思い出させる。長い退屈な夏休みがぼんやりとした10代だった自分を呼び起こす。1975年に14歳だった少年の中学生日記を読むのも悪くない。

君が壊れてしまう前に (角川文庫)」は中2の元旦から中3の大晦日までを綴った日記だ。

そこにはとっておきの仕掛けがある。「はじめに」に書かれた冒頭の文はこんなふうに始まる。

たとえば、バッハの「ゴールドベルク変奏曲」を弾くように毎日を思い通りに演奏することができるだろうか?(中略)「ゴールドベルク変奏曲」のアリアと30の各変奏はそれぞれが日記に書かれた1日のように独立していながら、緩やかに結びついている。「ゴールドベルグ変奏曲」では3曲目ごとにカノンが置かれている。そして、月の半ばにちょっと気持ちを入れ替えようとするのと同様に、30の変奏の折り返しの16曲目に序曲が置かれている。さらに、30日後に再びアリアに戻ってくるこの曲の円環構造はちょうど一ヶ月のサイクルと合致している。(「君が壊れてしまう前に」3~5ページ)

作者の密やかな企み。14歳の1日1日は決して思い通りにならないのだけれど、主人公は時にスローモーションの孤独をかこち気分はLargo、時には野蛮なダダオになってはちゃめちゃにAllegroというように変奏していく毎日を送る。ジェットコースターのような気持ちの変動。

とりわけ気持ちが揺れる「ピノッキオの親友プー」の告白は14歳のカラマーゾフの悩みのようで無邪気に哲学的だ。

―自ら糸を切ったピノッキオが体験するのは、自由の刑だ。何をしてもよいが、何をしたらよいかわからない(247ページ)

14歳という時は誰にも繰り返すことはできないが、日記は円環構造をもち1年という経験を糧にして再び14歳という少年に戻っていく。

はじめて島田雅彦の本を読んだ。スマートな振る舞いに、そこに突拍子もない破壊へのあこがれを秘める臭いがした。

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