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2008年7月 9日 (水)

「人間自身 考えることに終わりなく」

人間自身―考えることに終わりなく

 直感的に”その人”の言葉が私の中にとどまって去ることがないだろうと思う書き手が今までに2人いる。好きとか嫌いとかのレベルを超えてかけがえのない書き手といったらいいのだろうか。一人がアメリカの作家、フラナリー・オコナー。そしてもう一人が池田晶子。そして2人とも死んでしまった。

2007年早春に「墓碑銘」と題するエッセイを書き残して亡くなった。そのエッセイが載っている「人間自身―考えることに終わりなく」(池田 晶子著、新潮社)を読んだ。

2003年に「14歳からの哲学―考えるための教科書」(トランスビュー)が出てからすっかりメジャーになったが、わたしには「死と生きる 獄中哲学対話」(共著/新潮社)が衝撃だった。なんで獄中からの重い問いかけに答え続けていけるのだろう。あんなにも重い他人の重荷を負い続けるなんて。でも、私の思いなど余計なものだったのだ。彼女は、生きる(死ぬ)という命題に正面から向き合い、考え続けることをしていた。人間という謎をひたすら考え、答えを見つけようなどという傲慢さを清々しいほどに笑い飛ばしていた。

そして本当に死ぬまで考え、死んでもなお根源的な問いかけをしている。

最後のエッセイでこう語っているのだ。

墓誌、墓碑ウォッチングというのは、読む者には、その意味で究極の楽しみである。人生つまり、その人間の最終形が、そこに刻印されている。人生の〆の一言である。人は、記された言葉から人物を想像したり、感心したりしながら読んでくる。

 と、そこにいきなり、こんな墓碑銘が刻まれているのを人は読む。「次はお前だ」。

 ラテン語だろう。そうでなくても尋常ではない。楽しいお墓ウォッチング、ギョッとして人は醒めてしまうはずだ。他人事だと思っていた死が、完全に自分のものであったことを人は嫌でも思い出すのだ。それを見越してこの文句、大変な食わせ物である。〈中略〉

 それなら私はどうしよう。一生涯存在の謎を追い求め、表現しようともがいた物書きである。ならこんなのはどうだろう。「さて死んだのは誰なのか」。楽しいお墓ウォッチングで、不意打ちを喰らって考え込んでくれる人はいますかね。(本文155ページ)

惜しい人を亡くしたとは云うまい。考えることに終わりはないのだから。

今日の言葉 epitaph 墓碑銘

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コメント

コニコさん、いつも素敵な本の紹介、ありがとうございす。私も池田晶子さん、大好きです。そして小林秀雄氏も。小林秀雄に恋をしたのは、高校1年生の時。「私の人生観」でビビビです。好きな二人を挙げるとしたら、このお二人でしょうか。池田晶子さんが小林秀雄氏に熱烈なラブレターを書いていたことを知ったときは、嬉しくなりましたっけ。2番手は山本七平氏と塩野七生さん。山本七平氏も「小林秀雄の流儀」で小林秀雄氏を敬愛していることを明かしていますね。好きな人(池田さん、山本氏)が同じ人(小林秀雄氏)を好きだと知ると嬉しいものです。今朝も嬉しい気分です。

投稿: ルーシー | 2008年7月10日 (木) 06時35分

コニコさん

池田さんの文は今までも目にしていたと思うのですが、ほんの最近彼女の著作を意識的に選んだばかりなので、彼女が既に亡くなっていたことを知り、ショックです。(しかし、哲学者の死というのは「死」ではないような気もします。)

ご紹介の本、早速図書館に予約をいれました。わたしの頭ではその深さ、面白さがなかなか理解できないのですが、少しでも考えることについて考えられたらな、と思います。

投稿: あけきち | 2008年7月10日 (木) 07時09分

ルーシーさん、この本の中にも「小林秀雄 様」という項があって熱い思いを語っています。ここは、小林秀雄ファンで池田晶子ファンなら、きっとゾクゾクしながら読むところになるでしょうね。

こちらは、小林秀雄の「ドストエフスキイの生活」というのを読もうということにしました。(小林秀雄、読んだことないんです…まったく学生の時、本読んでなかったなあ~、と反省です)

投稿: コニコ | 2008年7月10日 (木) 20時49分

あけきちさん、実は私も最近なんです。何気なく借りた「人生のほんとう」を読んでいたら、付随した感想にお亡くなりになっていることが書いてあったんです。でもこの本を読んでいると池田さんが死んでいる気がしない―何だか変な言い方ですが。あけきちさんの仰る「哲学者の死は死ではない」というのと同じ気持ちです。

時々読み返して、池田さんに叱咤激励してもらうつもりです。
読後の感想を楽しみにしています。

投稿: コニコ | 2008年7月10日 (木) 20時59分

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