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2008年8月26日 (火)

原書「When the Wind Blows」 by Raymond Briggs

今月は原書「When the Wind Blows」(Viking Childrens Books)をなんと少しだけ早めに読破。グラフィック・ノベルなるコミックでしかも薄いから助かりました。それに先日吹き替え版映画「風が吹くとき」も観ちゃったし。原書は薄くて軽いのですが、内容は重い。

始まりはイギリスの田舎のとある図書館。いかにも善良なおじいさんが年金生活で倹しく暮らしている様子が伺えます。お互いに”dear”と呼び合い、”please”を言うなんとも愛らしい夫婦。

映画の吹き替えもよかったですが、原文の夫婦の会話がちょっと前のイギリス人夫婦ならこんなふうな感じで話すのだろうなという典型のよう。日本人の夫ならこんなに奥さんと楽しそうに話すかしらん、とも思えました。

夫婦2人の会話の間に突然見開きで進入する暗い核爆弾の影。「Meanwhile, on a distant plain…」「Meanwhile, in the distant sky…」「Meanwhile, in a distant ocean…」……そしてピカッと光るのは目をくらませる3ページにわたる白紙の閃光―

のどかに普通に暮らしていた日常を一瞬にして灰にしてしまう核爆弾。核の「風が吹いた時」、この赤子のように無垢ともいえる夫婦も…。

タイトルに使われているマザーグースはイギリスの童謡。よく映画のタイトルになったり、ニュースの記事に使われたりしますが、ここでのマザーグースも意味深長。

Rock-a-bye baby on the tree top, when the wind blows

the cradle will rock, when the bough breaks

the cradle will fall

- And down will come baby, cradle and all.

ねんねんや あかちゃんや たかたか きのうえ ねんねんや  かぜがゆらすと 

ゆりかご ゆれる  えだがおれると ゆりかご どさり
あかちゃんもろとも みなおちる (結城 浩訳)

そして本の最終ページ。2人でお祈りをする場面の訳では全然わからなかったのですが、そこにはイギリスの詩人テニスンの詩が引用されていたんです。イギリスがロシアと戦ったクリミア戦争で、テニスンがその時の騎兵隊の突撃ぶりをうたったものだそうです。タイトルは「The Charge of the Light Brigade」(「軽騎兵の突撃」)―「When the Wind Blows」の2人のお祈りは、下の引用の最後の1行で終わっています。

Half a league, half a league, Half a league onward,
All in the valley of Death Rode the six hundred.
"Forward, the Light Brigade! "Charge for the guns!" he said:
Into the valley of Death Rode the six hundred.

半リーグ 半リーグ 半リーグ 前進
六百騎の兵は全員 死の谷へと進む。
「軽騎兵 総員前進!」 「砲兵陣地を攻撃せよ!」
六百騎の兵は全員 死の谷へと進む。 (訳者不明)

本の2人は国が助けに来てくれると信じて、そしてイギリスが見えない敵(いちよう仮想敵国は、ソ連)に勝つと信じて死んでいきます。なんともやるせない気持ちになります。映画もよかったけれど、原書の力はもっとみる人を惹きつけました。英語の難度も高くないので、高校生くらいでも読めると思います。

蛇足ではありますが、グリッグスというとどうしても「スノーマン」になってしまうのですが、彼の作品の中で私の一番のお気に入りは 「Ethel & Ernest: A True Story」(Raymond Briggs著)です。著者のご両親の半生をつづった心温まるストーリーです。喜びと悲しみが混ざり合い、本を閉じた後、言葉にならない切なさを感じます。

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コメント

好きな本を紹介してくださって、嬉しいです。好き、と単純に呼べない内容ですが。

Ethel&Ernest、わたしも大好きでした。ご紹介の3冊、すべて持っていたはずなのに、度重なる引越しのどさくさでどこかに行ってしまっています。(まだ開梱していない箱がいくつもあります。)

コニコさんが書いたのを読んで、また本を読みたくなりました。困りましたネ、どの箱なのかしら・・・。

投稿: あけきち | 2008年8月27日 (水) 13時45分

あけきちさん、知り合いで「Ethel&Ernest」を読んでいる人がいなかったのでとっても嬉しいです。グリッグスの本から人(スノーマンも含めて)の温もりが感じられますよね。

たぶん、本好きのあけきちさんだから、「本」と書いたダンボールがいくつもあるのでしょう。うちも帰国して何年にもなるのに開けていないダンボール箱が今だにあるのですが、知らない間に懐かしい本やレコードもずいぶんとなくしている気がします。

本が出てくることを祈っていますねnotes

投稿: コニコ | 2008年8月28日 (木) 09時17分

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