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2008年9月24日 (水)

おくる優しさを感じる映画「おくりびと」

Photo  「おくりびと」というタイトルを聞いて「まれびと」を連想する。日本古来の霊的な存在、どこか生死をつかさどる神の領域を感じさせる言葉だ。きっと”納棺師”という題名だったら観に行かなかっただろう。

この映画は、チェリストになる夢にやぶれた大悟(本木雅弘)が故郷の自然と人々に助けられながら再生していく様子を綴ったものだ。

なんといっても血の通った活き活きとした、それでいて「生死」を考えさせる諦観したセリフが胸をうつ。小山薫堂による脚本の素晴らしさに冒頭から脱帽だった。

たとえば、NKエージェント社長(山崎努)が、精神的にどん底の大悟にいうこんなセリフ。「死ぬ気になれなきゃ食うしかない」と大悟にもフグの白子をすすめ、彼がおいしそうに頬張るのをみててれっと「困ったことにな」という。

この社長役の山崎努がどんと構えた存在感で新米「おくりびと」を鍛え、つつんでやっている。四半世紀前にもなろう伊丹作品「お葬式」で葬儀のイロハも知らない主役を演じた山崎努が、この映画では葬式のプロローグを勤める納棺師を演じているのが歳月を感じさせジーンとくる。

そしてチェロ。まるで「千の風になって」と対になった温かさをもって胸に響く。弦楽器は人の手から手に何世代もの時を越えて音を紡ぐもの。厳かな旅立ちの時を淡々と営んでいく大悟の姿と、東北の自然の中でゆっくりとチェロを演奏するシーンが交錯する場面は、彼の静かな成長を感じされた。弦の音はまるで人の声に聞こえる。チェロは壮年の響きを持つ声。その声を聞きながら、悲しみの儀式だと思われる納棺も、その人の存在が無くなるというよりも愛おしく清められ、自然に還っていくという思いを強くさせてくれる。

”チェロの神様”と呼ばれたカザロスや”魂のチェリスト”といわれるマイスキーが人間のこころに語りかけ続けた静かなチェロの声。その声は、久石譲氏の穏やかなメロディーにのり日本の四季をゆっくりと流れていく。

手堅く脇を固める名優たち―吉行和子、余貴美子、笹野高史、山田辰夫。自然体の演技が観ているもののこころにスッと溶け込んでいく。

大悟への石文(いしぶみ)は未来へとつながっていく。切なさを感じながらも爽快な気分にさせられた秀作だった。

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映画・ミュージカル」カテゴリの記事

コメント

どうもです。
そういえば、「お葬式」では、まごまごしてましたよね。
脇を固める役者さんたちのうまさが、いっそう映画の質を高めたような気がします。
やっぱ笹野さんですわ。

投稿: sakurai | 2008年9月25日 (木) 22時50分

sakuraiさん、いらっしゃいませ。むかし、「お葬式」の山崎さんの喪服姿が妙に印象に残っていて、またこの映画で喪服が制服の役ではまり役。

これだけ脇を固める役者さんがそろうのもめずらしいですね。欲をいえば、大悟の妻役は本木くんの本当のおくさん、つまり樹木希林さんの娘さんにやってもらいたかったな~。

投稿: コニコ | 2008年9月26日 (金) 07時11分

コニコさんにはげしく同感!!!
奥さんが広末ってのがあたしゃ気に入らないのさ。まだ観てないけど。

投稿: クーネルシネマ | 2008年9月26日 (金) 08時57分

クーネルシネマさん、相当キャスティングにご不満ですね。わたしもこの監督の「秘密」の時から、「広末さん、ちょっと○○なんじゃないの」と思ってました。この映画でまわりが手堅い演技だったんで、お気の毒なことになっていました。でも、それでもこの映画はいい映画でしたよ。

投稿: コニコ | 2008年9月26日 (金) 21時14分

「おくりびと」、よかったですね。「その人の存在が無くなるというよりも愛おしく清められ、自然に還っていく」には、同感です。私は、死に化粧してほしくなかったのですが、山崎努さんや本木くんになら、是非是非お願いしたい!と思って映画館をあとにしました。出演者はとにかく豪華版。広末さんも幼くって可愛くって私は、満足です。次は「アキレスと亀」観てみたいなと思っています。では、では、また。

投稿: ルーシー | 2008年9月27日 (土) 03時42分

ルーシーさん、観て来られたんですね。

おくられる人が若かったり、女の人が多かったせいか、私も「自分が死んだら、あんなふうにおくってもらいたい」と思ったりして。東北の自然にふれてみたいとも思いました。気になる映画「アキレスと亀」、同じです♪

投稿: コニコ | 2008年9月27日 (土) 09時46分

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□作品オフィシャルサイト 「おくりびと」□監督 滝田洋二郎 □脚本 小山薫堂 □キャスト 本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、杉本哲太、吉行和子、笹野高史、峰岸徹、山田辰夫 ■鑑賞日 9月14日(日)■劇場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★★★☆(5★満点、☆は0.5)<感想> 普段、遺体を棺に納める“納棺師”という言葉すら、耳にすることは少ない。 この映画は東京で楽団解散をきっかけにチェロ奏者の夢をあきらめ、故郷の山形に帰って来た小林大悟(本木雅弘)がある求人広告を見つけ、何が因果か再就職... [続きを読む]

受信: 2008年10月15日 (水) 17時22分

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 9/22の『おくりびと』の記事で、 僕の拙い言葉で全てを説明できないけれど、なかなか星を4つ半つけない僕がつけたということで、是非cyazに騙されたと思って劇場に足を運んでいただきたい。 人生の視点が少し変わるかもしれない、そんな映画です。 と結んだ。 実際に騙されたと思って映画館に足を運んだ人がいるかどうかはわからないが、もしそんな人がいたら、是非コメント戴きたい(笑) 騙されて良かったと思った人もぜひ。 9/14に、この映画を観終わった後に居酒屋でかみさんとビールを飲みながら(... [続きを読む]

受信: 2008年10月20日 (月) 17時44分

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