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2008年9月15日 (月)

「ヒトは狩人だった」でミーチャに出会う(カラキョウ番外編)

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前田司郎なる方が「ヒトは狩人だった」(青土社)という本を紹介していた。彼は「人はなぜ人を殺すのか」を考え始めた頃にこの本に出逢ったという。

無数の本、映画、ドラマで殺人が描かれ、ニュースでは数え切れない殺人事件(戦争を含む)が報道され続けてきた。それはわたしの生まれる前から起こってきたことだし、これからもたぶんまったくなくなることはないだろう。

わたしもこの”なぜ”を考えてきて、この本を読んでみようと思った。

かなりえぐい本だ。人間という地層をどんどん掘っていって古層にぶち当たったら、「ヒトは狩人」だった。実際に起こったいくつかの猟奇的殺人事件を事例に挙げている。

著者は、「ヒトの殺すか殺されるかという危機的な状況が狩猟段階に似てきて覚醒レベルを高進させる」という。その特徴として「活動性・移動性も高くなり、落ち着けなくなり、多動となり、同時に、感覚は周囲の微分的な予兆に敏感になり、被害妄想や幻覚類似の体験をする」らしい。その結果、被害者的加害者となりわが身を守るために「攻撃性」を高進させるというのだ。これをすなわち人が狩猟時代のヒトに”先祖返り”したことだと述べている。

なるほど、人間はつい進歩ばかりに目がいってしまうが、いいとか悪いとかではなく、行き過ぎた進行に対して、退行、つまり先祖返りを起こし、人間という種のバランスをとっているのかもしれないと考えてしまった。

このくだりを読んでいて、はたと気づいたことがある。「カラマーゾフの兄弟」の中でもひときわ暴走するミーチャ、一所に落ち着かず動き続けるミーチャが思い出される。ドストエフスキーがシペリアの地で出会った犯罪者の特徴をミーチャに重ねているような気がする。が、その意図は人間本来にもつ”本性・本能”を表したかったのではないか。特にイワンの”理性”との対比をしたかったのではないだろうかと思われる。

さらに「ヒトは狩人だった」を読みすすんでいくと、「社会制度として狩猟時代の記憶を復活させる工夫=祭り」が出てくる。つまり祭りで大酒を飲み、理性を失い乱痴気騒ぎが許されるのは、「狩猟時代にプログラムされた欲望や衝動を、ただ押さえ込むだけでなく、時々はカタルシスを起させることが秩序そのものの維持に必要だったのだろう(71ページ)」としている。

羽目をはずす祭りは厳しい生活をおくっていればいるほど必要な気がする。その羽目のはずし方も時代によってさまざまなのだろうか。

またもやミーチャの言及になるが、モークロエの祭りのようなどんちゃん騒ぎも彼自身だけでなく人間の無秩序、抑圧からの解放の表しているようだ。物語の中に徹底した無秩序を取り込むことで逆に秩序を作り出しているのかもしれない。さらにうがった言い方をすればお酒を飲んだり、博打をしたり、ミーチャを思いっきり”俗”物にすることで、アリョーシャの”聖”者との対比をしたかったのかもしれない。

本には他にも「幻視者・宮沢賢治の狩猟的世界」という興味深い章があり、ヒトの古来の狩人としての記憶に戸惑いながらもなんとか最後まで読むことが出来た。

はたして「人はなぜ人を殺すのか」の答えは見つけられなかったが、ひじょうに示唆に富む本だった。そしてドストエフスキーの人間観察の狂気的天才ぶりを感じさせられた本だった。

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コメント

コニコさんはじめまして。
先日はコメントありがとうございました。
子育て中を理由に最近特にこのようなジャンルの本を
見ていないのですが、人間は誰しも闇というか、善悪以前の残酷な本能を持ち合わせている気がします。
人間は進化ではなくただただ変化だけしてるのかもしれない。
ただ、わが子や次の世代に希望が持てるような世の中になって欲しいと願って病みません。

見聞を広める為にもまた遊びに伺います♪

投稿: マイコ | 2008年9月23日 (火) 17時36分

マイコさん、いらっしゃいませ。コメントをありがとうございました。なんだか貴ブログのコメント、間違いだらけでお恥ずかしいcoldsweats01giftedのスペルはおかしいし、”気負う子育て”したんじゃ、疲れちゃってね~。もちろん気負わないでやっていってください。娘さん、かわいい盛りですね。我が家の娘はもう高校生。時が経つのは早いものです。楽しんで子育てしてくださいね。

テキサスの記事も面白かったです。実は我が家も娘がそのくらいの時にアメリカに行きました。鈴木メソッドとか、がんばってやったりしてね。

お母さんの読書はこれからいろいろ読めますから焦らずにいて全然大丈夫ですから(o^-^o)

投稿: コニコ | 2008年9月23日 (火) 22時13分

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