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2009年1月20日 (火)

「おはん・風の音」

おはん・風の音 (中公文庫)

本の目利きといえば、小川洋子さんがラジオ番組「メロディアス・ライブラリー」で薦めていた「おはん」を先日読みました。作家の宇野千代さんは、桜の花びらが印象的な着物デザイナーでもあり、文庫「おはん・風の音 (中公文庫) 」の表紙も鮮やかな中にも儚さのある桜模様。まるで宇野千代さんが着物を羽織って登場したような雰囲気です。

メディアによく出ていた宇野千代さんでしたので、お顔は馴染み深いものでしたが、本を読むのははじめて。

話はおはんの夫だった男が、ふとしたことから隣り合わせた人に世間話をするかのように自分の過去を語っていく形で進みます。その語り口は独特でお話の巧みさと相俟って、読む人をぐいぐいと引き込んでいきます。

『よう訊いてくださりました。私はもと、河原町の加納屋と申す紺屋の倅でござります。生まれた家はとうの昔に逼塞してしまい、いまではこのような人の家の軒さき借り手小商いの古手屋、もう何の屈託もない身の上でござりますのに、何を好んでいらぬ苦労するかのおもいますと、わが身の阿呆がおかしゅうてなりませぬ。(7ページ)

この男、ともかく優柔不断。浮気をして家を出て行きながら、つい見かけた女房おはんがまた恋しくなって愛人おかよに隠れて逢引をかさね、両方にいい顔しているうちにとんでもないことになってしまうという話し。「こんな男、サイテー。なんでおはんはこんな男に従順なんだろう、なんで恨み言をいわないんだろう。」というのがほとんどの若い女性のご意見ではないかと思います。さらに、なんで作者は女の人なのに、こんな男の視点からものを書くのかしらといぶかしくなったりもします。

しかし、ここが宇野千代さんのすごいところなのでしょう。おはんの気持ちを直接語らせないことで、夫の視点というワンクッションがあるから見てて来るおはんのまっすぐな気持ち―それが読み手に女の深い情を思い起こさせている気がします。

おかよも、性格はおはんと対照的ですが、懸命に自分の気持ちに正直に生きている情の深い女性。エネルギーに圧倒されながらも、おはんよりも感情移入することができました。考えてみると、2人の女性にとことん惚れられて、この夫の身勝手さも「人の身の定めなさ」を体現しているようで、ある程度人生を重ねた中年のわたしには、この男も切なかったのだろうという思いもしてきます。それに子どもに降りかかった不幸があまりにも殺生なので、親はどんな思いをしたのかと思うと胸が塞がります。さらりと書かれたその描写に語り手とおはんのその後の人生をどんなにつらいものにしただろうか―哀しみの余韻をずっと残すものでした。

「風の音」は、「おはん」と合わせ鏡のようなもので、語り手が女、それも浮気をされる妻という設定です。とんでもない夫がまたもや登場し、さらにおかよなどかわいいものと思わせる超とんでもないお雪つぁんという女性が出てきます。ここでも夫婦の一粒種、直吉という息子が出てきますが、この息子までお雪つぁんに取られるのかという展開に唖然・・・。ちょっと過激すぎていまだに消化できずにいます。

宇野千代さんは「褒めてくれる人を大切に、自分も他人を精一杯褒める」というのを信条にしていたそうで、『幸福は幸福を呼ぶ』という随筆集には、「夫の夢を叩きつぶす妻に呪いあれ」という少々過激なテーマのエッセイが載っているそうです。おはんにしても、「風の音」の女の語り手(妻)にしても、夫の夢に寄り添う妻だったのでしょうか。たとえ、その夢が悪夢だったとしても・・・。

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