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2009年2月 7日 (土)

「赤朽葉家の伝説」

赤朽葉家の伝説

 もう1年も前になるが「桜庭一樹の言葉」という記事を書いた。彼女のインタビューをみて「ああ、この人の本を読んでみたいな」と思ったのだ。そしてやっとその機会に恵まれた。

赤朽葉家の伝説」(桜庭 一樹著/東京創元社)を読み終えた。

久々の長編小説―2段組の3部構成。ずっしりと重い、しかし心地よい重量感。桜庭氏によるとこの話は2ヶ月田舎にこもって一気に書いた作品だという。まるで赤朽葉家の人々が乗り移って書かせたのではないかと思ってしまう。女3代の、そして日本の昭和、平成をよくぞ書き切ったという思いで本を置いた。

強く印象に残るのが登場人物の名前だ。

”山の人”の子である万葉(まんよう)は未来を幻視する少女だった。やがて土地の富豪、「赤の製鉄所」を統括する赤朽葉家の大奥様に嫁として気に入られ嫁ぐことになり、産んだこどもが4人―泪(なみだ)、毛毬(けまり)、鞄(かばん)、孤独(こどく)。夫の愛人の子ども、百夜(ももよ)も引き取り育てることになる。毛毬の産んだ娘も自由という名前になるところだったが瞳子(とうこ)という名前に落ち着く。

名前らしからぬ名前たち。その名前にはおかしさと哀しさが交錯していて、その人の人生を反射していくようだった。万葉は高度成長期という神話の時代(第1部1953~1975年)に生きた巫女のような人であった。毛毬は、白けていく世の中のムードとバブルの虚のエネルギーを併せ持ち、爆弾のように生きた人だった(第2部1979~1998年)。現代につながる、自由という名前あらため瞳子は、バブル後の”失われた時代”から現代にかけて懸命に何かを見つけようとしている娘だ(第3部2000~未来)。瞳子は、万葉のように千里眼をもつ女性ではないが、じっと自分とまわりをみつめようとする。その瞳は、神話のような大きなスケールを持つものではないけれど、等身大の女性のもので、読んでいて気持ちをのせることができた。

時代を伝える紅緑村の描写が巧みであり、職工たちの暮らしぶりが手に取るように伝わってきた。時代のバックに流れる「恋のバカンス」や「イマジン」が切なく響いていた。

シーンとして心に残るのは、万葉と出目金のみどりが、おんなおとこ(みどりの、美しい狂った女装の兄貴)の死体を拾うところ。真っ黒な振袖に真っ赤な血模様がついた轢死体を片付ける万葉とみどり。月だけがその光景をみている。そして翌朝、疲れ果てた二人が見つけたものは、自死した人を弔う”山の人”が置いていった鉄砲薔薇一輪。色が滲む。

緩急ある構成も読み手を飽きさせない。第2部の毛毬の人気漫画家ぶりもリアルで、きっと桜庭氏が体験した世界が基になっているのだろう。第3部はサスペンスの要素もあり第1部の伏線がガンガン活きてきて面白かった。

桜庭一樹、お気に入りの作家になりました。

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» 時代に流されながらもしっかりと生きる女たち:赤朽葉家の伝説 [本読みの記録]
赤朽葉家の伝説作者: 桜庭 一樹出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2006/12/28メディア: 単行本 終戦後の昭和から、平成の現在までの時代の流れとともに、そこに生きた女性3代のたくましい生き方を描いたミステリ。 時代を題材にした小説でも、奥田英朗の「東京物語」がおじさんテイストなのに対して、本書は女性テイスト。桜庭一樹の代表作に恥じない、素晴らしい出来である。 ... [続きを読む]

受信: 2009年3月13日 (金) 17時48分

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