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2009年2月28日 (土)

原書「The Curious Case of Benjamin Button」(「ベンジャミン・バトン―数奇な人生」ネタバレあり)

Button 今月も月末になりました。恒例の原書のレヴューです。娘の受験で何かと大変だったので無理をせず、28頁の短編ものを選びました。

短いからといって侮れない作品。フィッツジェラルドがこんなサスペンスファンタジーっぽいショート・ストーリーを書いているとは全然知りませんでした。

アメリカのメリーランド、ボルティモアが舞台(映画「ヘア・スプレー」の舞台でもありましたね)。時は南北戦争後。ベンジャミン・バトンは70歳の風貌でこの世に生を授かった。誰もがこの理不尽な出来事に腹を立てていた。さらに彼は奇妙なことに年を取るごとに若返ってしまった。彼の生が一番死と近いもののように思えた時に人生が始まり、普通ならこれから未来を夢見る赤ちゃんの姿でこの世を去るという結末だった。

なんとも不思議な物語です。この物語のキーワードはなんといっても老いと若さ。それを支配するのが時間。普通に時間が流れれば、人間は若さを失い、老いていくものです。それが老いを失い、若くなっていくことで、彼の人生の理不尽さが語られれていきます。フィッツジェラルド自身が若さに対して並々ならぬ執着があったのではと、私は考えているのですが、このことを逆手にとった小説だと思いました。若さの意識の逆転が人を悲劇的な人生に追い込んでしまうというような。

ベンジャミンの周りの人は、実年齢と風貌のギャップの奇妙さを理解しようとか、悲しむとかではなく、拒否し、憤っています。こういう反応が一番多かったのは、ちょっとした驚きでした。彼の時間に逆らった人生は自らの力ではどうにもならないものなのに。冒頭から、ベンジャミンをとりあげたお医者さんが怒っていましたし、父親もしかり。そしてベンジャミンは、一目惚れした奥さんにもやがて拒絶され、自分の息子にもいいかげんにしてほしいという態度をとられるという始末でした。ベンジャミンが60歳(風貌は10歳)になり、息子に子ども(つまりベンジャミンには孫)ができた時に、息子のロスコーは、こんな気持ちになっています。

No one disliked the little boy whose fresh, cheerful face was crossed with just a hint of sadness, but to Roscoe Button his presence was a source of torment.  In the idiom of his generation Roscoe did not consider the matter 'efficient.'  It seemed to him that his father, in refusing to look sixty, had not behaved like a 'red- blooded he-man'- this was Roscoe's favorite expression-but in a curious and perverse manner.  Indeed, to think about the matter for as much as a half an hour drove him to the edge of insanity.  Roscoe believed that 'live wires' should keep young, but carrying it out on such a scale was-was-was inefficient.  And there Roscoe rested.

誰一人として嫌うことなど考えられない少年の活き活きとした快活な顔には、かすかに悲しみの翳がうかんでいたのだが、ロスコー・バトンにとって父親の姿は気苦労のもとでしかなかった。彼の世代ならではの表現を使うなら、ロスコーは”効率を重んじるために”余計なことは忘れてしまうことにしたのだ。本来の60歳の姿になることを拒否している父親は”血の通った男らしい男”―これはロスコーのお気に入りの言葉だった―とはかけ離れた、不気味で道理に反した生き物としか思えなかったのである。正直言って、この件について30分も考え込んだなら、気が変になってしまうだろう。”活力”が若さを保つとは思うが、ここまで極端だと―何というか―意味がない。だから、余計なことで悩むのをやめた。(翻訳「ベンジャミン・バトン」56ページ永山篤一訳)

最後には孫にも追い越され、赤ちゃんのベンジャミンの心に残ったのは―「闇、そして白いゆりかご、ぼんやりした顔、温かな甘いミルクの匂い、みんな交じり合って消えていった」のです。Then it was all dark, and his white crib and the dim faces that moved above him, and the warm sweet aroma of the milk, faded out altogether from his mind.―最後のシーン―たまらなく切なくなりました。

この小説は映画化され、今上映中ですが、是非観たいものです。初恋の人との恋と結婚にテーマをおいて物語りは進むと思いますが、どう原作と違うかも見どころです。原作では、実年齢20歳、風貌50歳のベンジャミンが25歳のヒルデガルドに一目ぼれするシーンもフィッツジェラルドらしい流麗な文でベンジャミンの浮き立つこころを描いていて、読んでいてうっとりしてしまうところでした。この部分も、映像でどう描いているか楽しみです。

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コメント

 映画の原作がフィッツェジェラルドとは、コニコさんのブログを読むまで私は知らなかったんです。そうと知ったら読みたくなりますよね。でも今のところほかのを読んでいるし・・・今回の記事は「ネタバレあり」ということなので、途中までしか読んでいません。28ページならなんとかなるかな、と来週洋書を買おうかと考え中・・・
 ところで受験生の母は大変ですよね!早く春が来ますように!!

投稿: 点子 | 2009年3月 1日 (日) 23時49分

コニコさん、こんにちは
私も夫から原作がフィッツジェラルドと聞いて
自分の持っている短編集を見てみましたが
残念ながら入っていませんでした。
今はオースティンのマンスフィールドパークを
読んでいるのでこれが終わったら
読んでみようかなと思っています。
私は耳が悪いので映画館にはいけませんので
DVDになったら是非、映像も楽しみたいと
思います♪

投稿: マナ改めjessie | 2009年3月 2日 (月) 11時25分

点子さん、こんばんは。励ましのコメントをありがとうございます。あと少しで娘も卒業です。

ところで、ネタバレというほどでもないのですが、よくまとまった短編だと思います。是非読んでみてください。家が近ければ本の貸し借りができるのに、と思いますがね~。感想を楽しみにしています。

投稿: コニコ | 2009年3月 2日 (月) 23時56分

jessieさん、コメント、どうもです。今「マンスフィールド・パーク」を読んでいるのですか?この本は、長編ですが、ファニーにどのくらい感情移入できるかで読むスピードが変わってくるかも?わたしも近々レヴューをしますね。

フィッツジェラルドもこんな作品を書いていたのかといい意味で意外でした。映画もまたご報告しますね♪

投稿: コニコ | 2009年3月 3日 (火) 00時01分

 こんにちは。京都のジュンク堂に寄ったら、Benjamin Button だけの急ごしらえ(?)みたいな薄いペーパーバックがあって思わず買いました!で短かったしあっという間に読めてしまいました。文章はコニコさんが仰るとおりほんとうにうっとりするようです。学生時代の「ギャツビー」のイメージがあって時間がかかるかな?と思ったのですがまた違う文体のようで・・・しかもユーモアの部分もあり、とても意外で新鮮、楽しめました。またブログでも書きたいと思います。コニコさんのお勧めのおかげです!ありがとうございます!ファウストも読みたいんだけど、これは図書館に行こうかな。また面白い本をどんどん教えてくださいね!

投稿: 点子 | 2009年3月 7日 (土) 15時32分

点子さん、「ベンジャミン・バトン」を読まれましたか。一気に読めましたでしょ。傍から見るとちょっと滑稽なところもあるのですが、本人にしてみればしんどい人生だと思います。点子さんの感想を楽しみにしています♪
手塚ファウストも図書館できっと待つことなく借りられると思いますよ。3つのファウスト翻案のうち、どれが気に入るかしら?

投稿: コニコ | 2009年3月 8日 (日) 20時41分

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