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2009年3月 5日 (木)

漫画「百物語」+手塚ファウストを考える

Cimg0942 昨日の漫画「ファウスト」は手塚治虫氏が21歳の時の作品だといいましたが、今日のファウスト翻案作「百物語」は、それから21年後の手塚氏が42歳の時に描かれたものです。

初めての漫画「ファウスト」が1部構成だったのに対して、この「百物語」は4部構成(第一部・放浪編、第二部・恐山編、第三部・黄金編、第四部・下剋上編)。写真は、主役のしがない下級侍、一塁半里(いちるい はんり)をメフィストフェレス役、女スダマがイケ面男に変えた後の顔です。名前も改め、不破臼人(ふわうすと)となった瞬間。手塚氏の一代目ファウストより、しっかりした男らしい風貌に描かれていますね。さすが手塚氏が乗りに乗っている時代です。

この作品の舞台は、オリジナル感あふれる下剋上の時代、侍の世の日本です。原作との大きな違いは、主役が長い人生を無駄にしたことを嘆いて死にたくなる設定ではなく、ファウストもどきの一塁がまだ若く、濡れ衣の咎で切腹を命じられる場面から始まる点。そして悪魔役のメフィストフェレスが女になっていて、彼女が不破臼人を好きになり、最後に彼の魂を救ってあげるというエンディングになっているところ。

西洋のキリスト教的罪と罰を意識するよりも、この作品は人間の情というものに訴えるストーリー展開だといえるでしょう。そして不破臼人が憧れる絶世の美女が、実は狐だというのも、妖怪、魔物、魑魅魍魎が跋扈している土着民話のようで面白いですね。恐山編などは読んでいてその世界にスッと入っていけてとっつきやすくなっていると思います。

ここまで手塚氏のファウスト3作品(「ファウスト」「百物語」「ネオ・ファウスト」)を読んできて一番気になるのは、1、2作ではファウスト役もメフィストフェレス役も根っから悪いことを考えないし、実際にも真の悪事をはたらいてはいない気がするのに、「ネオ・ファウスト」では、ファウストにしてもメフィストフェレスにしても平気で人を殺していき、一気に人間の負の部分が滲み出ている点です。「ネオ・ファウスト」の第2部は未完に終わっていますが、手塚氏が実はエンディングでファウストの魂を救うかどうか迷っていたことが解説に書いてあり、人間の闇の部分を見つめていたことが推察できます。

手塚氏の生涯と共に変化していったファウスト。その行く手が本当に限りなくダークなものになったかどうか、今となってはわかりませんが、読み手の一人ひとりが自分のファウストのエンディングを探ってみる価値はありそうです。また時間をおいて「ネオ・ファウスト」を読んでみようと思います。

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コメント

コニコさんの書評を読んで、読みたくなってしまいました。でもアメリカから本を注文すると送料がすごいのですよweep。キリスト教の影響が強い西洋のクラシックを日本的に解釈したものは、外国でかえって強い印象を与えるようですね。私の娘は高校で今マクベスを学んでいるのですが、授業で黒澤明監督の「蜘蛛巣城」を鑑賞した言っていました。手塚ファウストを新たにアニメにする企画はあるのでしょうか?そうしていただけると私も観ることができるので、ぜひ作って欲しいものです(私は救いあるエンディングのほうが好みです)。

投稿: 渡辺 | 2009年3月 7日 (土) 20時34分

渡辺さん、こんばんは。海外で無性に日本の本が恋しくなったのを思い出しました。ホント、書籍の送料は高いですよね。
ところで「鉄腕アトム」はコンピューター・グラフィック版が出来るそうですが、手塚ファウストは今のところ何もないです。ゲーテの原作「ファウスト」もぼちぼち読み始めようと思っています。渡辺さんは読んだことがありますか?

娘さんが高校生なのですね。学校で黒澤映画を観るなんてやりますね。うちの娘は先日高校を卒業しました。同じ年頃ですね~notes

投稿: コニコ | 2009年3月 8日 (日) 20時55分

コニコさんこんにちは。たぶん同じ年頃ではないかと思っていましたwink。海外はどちらに在住していらしたのですか?
ファウストの原作(翻訳版ですが)は、高校のときに徹夜して読みました。そのときには相当強い衝撃を受けたのですが、記憶力が悪いものでおぼろにしか覚えていません。昨年娘の高校で現代版にアレンジされたファウストの演劇が上演され娘とあれこれ話し合いましたが、時間ができればぜひ読み返してみたいものです。

投稿: 渡辺 | 2009年3月 9日 (月) 18時23分

渡辺さん、こんばんは。
オハイオ州コロンバスの北に3年とシカゴに1年ちょっとおりました。もうずいぶん前のことですが。
高校生の時に既に原作をお読みとはさすが!それに娘さんとファウスト談義ができるなんて~。私は1999年に出た池内紀訳「ファウスト」を読もうと思っています。翻訳もいくつかあるんですよね。きっと徹夜では読めませんが、娘の受験も終わったことですし、がんばります♪

投稿: コニコ | 2009年3月 9日 (月) 23時02分

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