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2009年3月 9日 (月)

「TVピープル」

TVピープル (文春文庫)

友達から借りた「TVピープル (文春文庫)」(村上 春樹著、文藝春秋)を読む。初出が1989年の短編6篇。今から20年前の作品群だ。そして村上氏が今年で60歳だから、40歳の時の作品ということになる。

どの作品も登場人物の名前が出てこない。主人公は「彼」であり、「彼女」だ。ああ、これはどこかで見た風景だなと思う。たぶん、レイモンド・カーヴァーのようだ。実際、村上氏は1983年に「ぼくが電話をかけている場所」を皮切りにカーヴァー全集をすべて翻訳している。どこか日本ではない異空間を感じさせるのもカーヴァーの作品の響きを感じさせるからか。特に1編目の「TVピープル」は奥さんが突然帰ってこなかったり、シュールなTVピープルの言動などカーヴァー的。

それでも音楽のこだわりとか井戸の描写とか、どこを切ってもやっぱり村上春樹の色が出ている。2篇目の「飛行機―あるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったか」の井戸はこう。

「人の心というのは、深い井戸みたいなものじゃないかって思うの。何がそこにあるのかは誰にもわからない。ときどきそこから浮かびあがってくるものの形から想像するかしないのよ」

二人はしばらく井戸について考えていた。(66ページ)

こんな文を読むとなんだか納得してしまう自分がいる。「そうなのよ」とわけのわからない根拠なき確信みたいなものに惹かれてしまう。

3編目の「我らの時代のフォークロア―高度資本主義前史」は、絆をきずけない人間のやるせなさ―人と人がどうしようもない虚ろさがにじんでいた。「僕は思うんだけど、深い哀しみにはいつもいささかの滑稽さが含まれている」(116ページ)という「僕」の友だちのことばが心に残る。

4編「加納クレタ」、5編「ゾンビ」はちょっとこわくてグロイ話し。

一番感覚的に身体に残るのが最後の短編「眠り」(短編といっても65ページですが)だ。何日も眠れない日々をおくる主人公の「私」は歯科医を夫に持つ主婦。子どももいて家庭に問題があるわけでもない。でも「私」は少しづつおかしくなっていき、眠れぬ闇に絡み取られるように彼女の車が、そして彼女自身がゆらぎつづけて・・・。

特に眠らない時間を「アンナ・カレーニナ」やドストエフスキーを読みながら過ごしたという、本を読むシーンが結構、鬼気に迫るところがある。ずっと食べていなかったチョコレートとブランデーを片手にひたすら読んでいるのだ。恐い世界へと導かれるようだけれど、すごく気にかかる不思議なエンディングへ。

久しぶりに村上春樹のショート・ストーリーを楽しんだ。

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