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2009年4月23日 (木)

「雪」

雪

 (オルハン・パムク著、藤原書店)

点子のブックカフェの「雪」を読んで、爆笑問題の太田さんの強い推薦を聞いて、この本を読み始めました。566ページと長編だからだけではなく、とても読みにくく時間のかかった読書になってしまいました。なんといっても私には、この本を読むためのトルコの歴史的、政治的背景の知識が全くなかったのですから。私のような読者のためか、冒頭には「主な登場人物」「用語解説」「本書の背景」などの解説とトルコ共和国の地図が載っていました。うーん、これを読んでもやっぱりむずかしい。しかも、訳文が読みにくい。フ~。

主人公のKaは何年も政治亡命者としてドイツに逃げていたトルコ人詩人で、母親の葬儀でトルコに帰国。トルコの小さな町カルスで起こった少女たちの自殺事件を追うためと、そこにいる思い人、イペッキに会うために雪が降る中、カルスへと向かう。その町に滞在中に起きた人々の苦しみと挫折、幸せが中盤から加速していき、サスペンスを生んでいく。著者であるオルハンも語り手としてKaをみつめていくことになり・・・。

読み終わると、じわ~とこころに沁み込んでいくような切実なものがありました。

政治と宗教、西との対立を縦軸に、Kaとイペッキの恋愛を横軸に時間が降り続ける雪とともに進行していきます。つねに降っている雪が、トルコの貧しい辺境の町カルスを外界から隔離し、内側に覆うような陰鬱さが繰り返し繰り返し描かれます。しかし、その雪は、陰鬱であると同時にKaには子どもの頃の幸せを思い起こさせるものとしても描かれているのですが。

Kaは、教育の場や公共の場で髪を覆ってはならないといわれているトルコの女の子が、どんな気持ちで死んでいったかを追いながら、自分自身の孤独と神の問題、西欧化への問題を反芻することになります。

女性のスカーフ着用の有無は、イスラム教を信ずるものにとっては単なる身に付けるもの以上の宗教的シンボルとしてみられていますし、それがまた政治的な意味合いももつというきわめて複雑なものだということが頭ではわかりました。でも、こういった問題は、生活に密着したものでもあり、わたしにはなかなか実感が湧かず、理解したとは言いがたいものです。

物語の後半、Kaのことを調べている小説家オルハンは、フランクフルトでこう考えています。

他人の苦痛や恋を理解することはどこまで可能であろうか?わたしたちよりも、より深い苦悩、貧困、虐げられることの中で生きている人たちのことを、わたしたちはどこまで理解できるのであろうか?理解するということが、もし自分自身を自分とは異なる人々の立場におくことができることならば、この世の金持ちや支配者は端の方にいる何百万の惨めな者を理解できるだろうか?小説家のオルハンは、詩人である友人の困難で苦しい人生の闇を、どこまで見ることができるのだろうか?(344ページ)

そんな気持ちのオルハンが、トルコの町カルスを訪ね、そこに住む人々に会い、Kaが見たであろう激しくする雪を見て、最後に深く涙しています。Kaの詩を見つけられなかったとしても、その時に泣いていたオルハンは、確かにKaを、そしてカルスの人々を感じていたと思わずにはいられません。

読むのが大変時間がかかりましたが、このエンディングまでたどりつけてやっぱり甲斐がありました。

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コメント

コニコさま
はじめまして~。クーネル様のところから
飛んで参りました~。
ジョゼのよさを再認識した私も遅れてきた
乱読オカンです(笑)
読むのに時間がかかりそうですが、太田さん
推薦なら読んでみたいー。
映画「シリアの花嫁」見て思ったのですが
やっぱり地理的、政治的背景をしっかり
理解していないとわからないことって多い
ですね。これを補えばずっとヒロインのことが
深く知り得たのに。。。と激しく後悔。
でもとてもいい映画で自分の立ち居地を
再考できました。(^^)
リンクいただいてよろしいでしょうか?
子供はお笑い武闘派女子大生のちょっと
おもしろい関西のウチだと思いますが、
これからもよろしくお願い致します~。

投稿: mint2 | 2009年4月28日 (火) 10時48分

こんばんは。
拙いブログをとりあげてくださってありがとうございます。それよりなによりコニコさんがこの小説を読んでくださったことがうれしいです。確かに日本語の訳文は読みづらいですよね。私は結局英文で読んだのですが、いずれにせよ、大変でも読んだ甲斐のあるすばらしい小説ですよね。ほんとに一人でも多くの人に読んでもらいたいし、また難しいところもあるのでパワーがあれば再読したい本の一つです。

投稿: 点子 | 2009年4月28日 (火) 22時03分

mint2さん、はじめまして。クーネルシネマさんのお友達ということで、友達の輪、嬉しいです。

太田ファンですか?この本、ホント青筋立てて薦めていた本ですよ。なかなか自分からは読めない作品ですが。

「シリアの花嫁」、気になっています。映画館でやっているうちに行けるかな~。

リンクしていただけるんでしょうか?喜んでnoteこれからもよろしくお願いします。

投稿: コニコ | 2009年4月29日 (水) 08時39分

点子さん、こちらこそ点子さんのオススメがあればこそ読めた本です。途中で余程英語版にしようかと思ったのですが、なんとか踏ん張り完読できました。

たしかに一読ではわからない機微があり、人物たちがうまく頭の中でしゃべったり、動いたりできないでいるところがあります。時間を置いての再読、いいですよね。今度は英語でにしま~す。

投稿: コニコ | 2009年4月29日 (水) 08時46分

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