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2009年5月 1日 (金)

翻訳「ベンジャミン・バトン」読み比べ

ベンジャミン・バトン  数奇な人生 (角川文庫)

ヘミングウェイもいいけれど、やっぱりフィッツジェラルドをもう一度。2月に原書で「The Curious Case of Benjamin Button」を読みましたが、ほぼ同じ時期に2冊の翻訳本が出たので読み比べてみました。

①「ベンジャミン・バトン 数奇な人生 (角川文庫)」(フィツジェラルド著、永山篤一訳、角川グループパブリッシング 定価476円)…初版発行2009年1月25日

ベンジャミン・バトン 数奇な人生 ②「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(スコット・フィッツジェラルド著、都甲幸治訳、イースト・プレス 定価1300円)…初版発行2009年1月30日

コニコが気に入っているシーン―見た目50代のベンジャミンが恋に墜ちるところを読み比べてみます。

まずは原文

  They pulled up behind a handsome brougham whose passengers were disembarking at the door.  A lady got out, then an elderly gentleman, then another young lady, beautiful as sin.  Benjamin started; an almost chemical change seemed to dissolve and recompose the very elements of his body.  A rigor passed over him, blood rose into his cheeks, his forehead, and there was a steady thumping in his ears.  It was first love. (p.14)

永山訳

 二人の馬車は、ちょうど乗客がドアから降りるところだった立派な一頭立て四輪馬車の後方に停まった。まず最初に女性が降り、、それから年配の男性、そして罪深いくらいの美しさを放っている女性が降りてきた。ベンジャミンはうっとり見とれてしまった。化学反応で全身がとろけてしまい、ふたたび体のすみずみが再結晶化したような心持ちになる。胸が苦しくなり、頬と額が真っ赤に染まり、耳がドクドクと脈打つのが聞こえる。初恋だった。(34ページ)

次に都甲訳

 堂々とした一頭立て馬車の後ろに二人は停車した。その馬車からは乗客が門口に降りていた。女性が降り、年配の男性が降りて、それから若い女性が降りてきた。実に美しかった。ベンジャミンはハッとした。化学反応のようなものが起こって、いったん彼の体をバラバラに分解したあと、また一つにしたような気がした。ブルッと寒気がして、血が頬や額に上がり、耳の中でドクドクと音がした。初恋だった。(40ページ)

都甲訳の方が原文に正確で、永山訳は叙情的な感じがしますね。あなたはどちらがおスキでしょうか? ちょっと困ったのが、ともにところどころ「へッ、これって誤訳じゃないの?」という部分があったのです。もしかしたら底本(翻訳する時に使った原書)が違ったのかもしれません。フィッツジェラルドは書き直しが多い作家だったそうですから。

それにしても、この作品の訳がこれまで出ていなくて、映画化されたことで一気に2つも同時に出るとはビックリします。どっちを買おうか、さんざん迷って、安くて他の短編も入っている永山訳を買い、都甲訳は図書館で借りることにしました。で、最後まで読み比べてみると都甲訳の本に魅力を感じましたね。こちらはベンジャミンの年齢の節目ごとにイラストがあり、丁寧な装丁も好感が持てました。

ただし、永山訳の本の、最後に小山正氏が書いた「解説 F. スコット・フィツジェラルドの知られざる顔」、結構面白かったですよ。

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コメント

こんばんは。
翻訳読み比べ、面白そうですね!私は結局原作を読んだだけで映画も見ていないし、自分の英語力だけでちゃんと理解してるかどうか、ちょっと心もとないかな・・それはともかく、ご指摘のこの部分は私もとても好きです!翻訳はこの部分だけなら永山訳が好きかな・・・今日本屋さんに行ってみましたがどっちもありませんでした。残念。ちょっとその「解説」立ち読みしようと思ったんですけど・・・また色々情報くださいね!

投稿: 点子 | 2009年5月 4日 (月) 21時44分

点子さん、GWをいかがお過ごしでしょうか?

こちら、原書で楽しめればもう十分なんですが、新刊本で出ていたので手に取ったというわけです。永山訳は叙情的でフィッツジェラルドの雰囲気に合っていそうなんですが、全体として「あれっ?」の多い訳だったので、都甲訳に軍配が上がったわけなんです。caneを籐椅子と訳していたり…。

解説にある「F.スコット・フィツジェラルド作品映像化&執筆脚本一覧」もわたしには魅力でした。

投稿: コニコ | 2009年5月 4日 (月) 23時45分

こんにちはコニコさん。楽しい企画ですね。訳す人によって作品がまったく異なったものになってしまうのがすごいです。
私は都甲訳のほうが好みです。簡潔でありながらちゃんと原書の雰囲気を伝えていることに才能を感じます。

永山さんのCaneは疲れて集中力がなくなったときだったのかもしれません。締め切りに追われて寝不足になると、そういう「魔の時間」ができ、信じられないようなケアレスミスをするのですよ。私も編集者に指摘されて「穴があったら入りたい」と恥じ入ったことが何度か…wobbly
それから、監訳をしたとき、翻訳者が1ページすっかり飛ばしていたことがありました。
「ここで居眠りして、次のページで目覚めたのかな?」と不思議でした。

投稿: 渡辺 | 2009年5月 5日 (火) 08時02分

渡辺さん、アメリカでは豚インフルエンザの人々の対応は、どうなっているんでしょう?気になるところです。

訳に関してですが、ご指摘の「魔の時間」というものは本当にあるみたいですね。前に週刊STにもプロの翻訳家が似たようなことを書いておられました。わたしも、拙ブログの記事で、誤字、脱字が多くて気がついた時は毎度恥ずかしい思いをしています。書いた後、時間をおいて読み直すのが大事だと思っても、なかなか時間がなくてすぐアップしてしまいがちです。わたしも気をつけなくっちゃ~。
そうそう、渡辺さんが翻訳された本、読み始めましたnote

投稿: コニコ | 2009年5月 5日 (火) 23時49分

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