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2009年6月 5日 (金)

「朗読者」(少しネタバレあり)

朗読者 (新潮文庫)

小川洋子さんオススメの本、「ジョゼと虎と魚たち」に続いて第二弾は、「朗読者 (新潮文庫)」(ベルンハルト シュリンク著)

語呂合わせの「朗読の日」(The Reader)、6月19日よりロードショーされる映画「愛を読むひと」の原作がこの「朗読者」です。

この本は1995年に出版され、2000年に日本でも翻訳され紹介された本ですが、訳者、松永美穂さんの「あとがき」によると、この本を彼女に紹介したのが、池内紀さんだったそうです。わたしが読んだ新潮クレスト・ブックス「朗読者」の裏表紙には池内紀さんのこの本への賛辞が載っています。池内さんは、「ファウスト」を翻訳された方。「ファウスト・クラス」のテキストでお世話になっています。

さて、舞台は第二次世界大戦後のドイツ。病気がちだった感受性の強い15歳の「ぼく」は、母親といってもおかしくない20歳以上も年上のハンナと出逢い、逢瀬を重ねます。思春期の切ない恋愛小説かと思いきや、物語はハンナの突然の失踪で、思いがけない展開になります。彼女と「ぼく」が再会したのは法廷。まだ学生だった「ぼく」は、たまたまゼミで研究テーマになった裁判を見に行った先で、戦中、強制収容所の看守の時の罪に問われるハンナを発見します。公判はハンナの思いとは裏腹に不利になっていき、重い刑罰を受けることになってしまいます。そして、裁判のその後を二人は会うことなく、「ぼく」が朗読したテープを送るという関係が何年も続き、・・・。

ストーリーは、全く緻密に計算されたパズルのようで、読んだ後の細部の描写がいちいち胸に迫りました。最初の美しかった「年上の恋人、ハンナ」のイメージはたまらなく蠱惑的です。わたしもすっかり「ぼく」と寄り添い、彼女の画のようなイメージを記憶に焼き付けていました。

一転して、裁判でのハンナをみて、「ぼく」は、彼女が関わった過去の記憶を聞きながら現在のハンナに対しての思いを麻痺させていくのです。この麻痺の感覚は、「ぼく」だけのものでなく、公判にいた加害者、被害者、裁判官、検事にも拡がり、「無遠慮で無関心な態度や鈍さにおいて、麻酔をかけられた酔っぱらったような様子」(100ページ)が漂います。

囚人に対してとった看守たちの態度を正当化することでなく、ハンナが発した「あなただったら何をしましたか?」という真剣な問いかけは、戦争の残酷さを感じさせます。そして、その質問の裏には、人には小さな秘密でも、彼女には誰にも知られたくない大きな秘密があったのです。

秘密を知った「ぼく」は、裁判の後、朗読テープを送り続けます。それがハンナにとって外界とをつなぐ唯一の絆になっていきます。ナチス時代の罪の烙印を押された年老いたハンナ。「ぼく」は、やがて悲しいとか幸せだとか関係なく、二人の過ごしてきた記憶を物語にしました。「ぼく」もハンナも忘れられない思いを胸に、読み続けた朗読は二人の真実の物語。

本を読みながら、「ぼく」の朗読する声がエコーし、わたしはいつのまにかハンナといっしょにその声を聴き入っていました。

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