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2009年6月29日 (月)

リービリービ英雄の”越境の声”

仮の水

 東大本郷キャンパスで作家リービ英雄さんの講演会がありました。文学部に新しく出来た現代文芸論研究室の主催です。従来の国による枠組み―フランス文学やイギリス文学というものを取り払い、垣根をなくして今の世界文学を見ていこうという研究にふさわしいゲストです。月曜の夕方という中途半端な時間設定にもかかわらず、熱心な受講者が集まっていました。

まずはリービ英雄さんが先日、伊藤整文学賞を受賞した「仮の水」(リービ 英雄著、講談社)の話しをし、紀行文学、越境する文学の話しへ。だんだんと興に乗ってきたようで、多岐にわたる文学概論へ。2時間以上の刺激的な講演でした。

リービ英雄さんは、アメリカ生まれですが、幼年時代に台湾でさまざまな中国語(北京語はもちろん台湾語、上海語、広東語)を聞いて育ち、成長して日本語を学び、日本語で小説を書いているという変り種です。彼が書いた最新作「仮の水」という小説は、主人公がひとり中国の奥地を旅するという物語だそうですが、その小説のきっかけになった”仮の水”ということばのエピソードには興味深いものがありました。

リービさんは日本語も漢語にも精通しているため、中国語で”偽の水”ということばを聞いたとき、オリジナルである漢字をいったん日本語というフィルターに通しことばを考えたそうです。・・・”かりそめの水”・・・”仮の水”というように。そしてことばの不思議さに驚かされたというのです。他の文化のことばに想いを馳せるとき、無意識に言っていることばが思いもかけない意味を浮かび上がらせることがあるというのです。使い慣れた母語が別の文化のことばでながめると今まで見ることのない輝きを発するように。彼の場合は、英語と日本語と中国語というトリリンガルな視点を持っているわけです。

中盤、中国文学の藤井省三先生がリービさんに「なぜ中国大陸に旅するようになったのですか」という質問をしていました。その答えはちょっとドラマチックです。成長してからずっと日本に興味があって、中国に関心がなかったのが、ひょんなことから中国本土に仕事で旅することになり、突然そのときに”プチ・プルースト体験”をしたそうです。つまり「失われたことばを求め」るように子どもの頃の中国語がよみがえってきたというのです。ずっと眠っていたことばがば~っと体に湧き出てくるという感覚、残念ですが東京生まれ、東京育ちの私にはちょっと体験できそうもありませんが。ことばが体と一体化して呼び覚まされるような、きっと劇的なものなのでしょう。う~ん、まさに自分の中でのことばの越境がおこなわれた瞬間なんですね、面白い。

リービさんの本は「英語でよむ万葉集」しか読んだことがなかったのですが、是非「仮の水」を読んでみようと思います。「越境する文学」を熱く語る講演で、聴いている方も熱くなりました。

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