« メロディアス・ライブラリーで田辺聖子さんを訪ねる | トップページ | 決断は― In any moment of decision »

2009年7月13日 (月)

バッハ「平均律クラヴィーア」と「1Q84」

発売約1ヶ月で200万部を突破したという村上春樹の「1Q84」。章立ての構想になったといわれるバッハの「平均律クラヴィーア曲集第1、2巻」を本のイメージを思い浮かべながらいくつか聴き比べてみました。

「1Q84 BOOK1は―物語のスピード感と何処に連れて行かれるのかわからなさからいうと、「野平一郎/J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻 」の演奏がイメージに合う気がします。

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻

ピアノの先生をしている友達からのお薦めでしたが、これがなかなか面白く、昨日は1日聴いていました。野平一郎氏のことは全然知らなかったのですが、もっと他の曲も聴きたくなりました。ベートーヴェンの作品をずいぶん録音されているようなので探してみようっと。

作曲家でありピアニストである野平一郎氏はこのアルバムを「国境のない『平均律クラヴィーア曲集』」と名づけ、こんなことを書いています。

今回の録音では、通常の録音や演奏に見られるように、バッハの多様な表現を唯一の楽器、チェンバロとかピアノとかで楽しむのではなく、「凸凹(でこぼこ)」を基本的な概念として、わたしが演奏できる範囲で複数の楽器(ピアノ、オルガン、チェンバロ)を使い、さらにいくつかの曲においては、コンピュータの助けを借りて、バッハの原曲から逸脱して異なった世界で遊べたらと思った。こうして前例のない、楽器の制約にしばられることのない、正に「国境のない」平均律のクラヴィーア曲集を実現したいと思ったのだった。(「アルバムの解説書」より)

走るような躍動感あるチェンバロから、圧倒される重厚な音を持つオルガンへ、そしてテンポの心地よいピアノと、時の変奏曲のように次々と展開されるバッハは、「BOOK1」の読後感にも似ています。

 「1Q84 BOOK2」は―ダニエル・バレンボイムの「バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻 」がお薦め。「BOOK1」の青豆と天吾が内省へと向かう時間の流れがこの曲と似ています。そしてピアノの響きに温かなぬくもりがあって、内なる世界がゆっくりと拡がっていく想いが感じられます。これはひとつの壮大な物語にも当てはまる雰囲気でしょう。

バレンボイムは、ハンス・ファン・ビューローがこの「平均律クラヴィーア曲集」を旧約聖書と比較したことについてこう解説しています。

そもそも旧約聖書とは何であろう。一方ではそれは、ある民族の歴史と体験を綴った物語である。他方ではそれは、生と愛、倫理、道徳、人間の本性について考えをめぐらせたものである。過去の経験とそれへの省察からは、現代への注釈と、これから起こること、未来への教えが生まれてくる。そしてこの未来への教えから、人々は自らの道を考え、進むことができるようになる。私にとって旧約聖書とはこのようなものだが、同時にそれは、あらゆる優れた作品、とりわけ《平均律クラヴィーア曲集》に共通する属性である。バッハのこの大作は、それまでの音楽の集大成であり、過去への注釈/未来への指標なのである。《平均律クラヴィーア曲集》は、バッハの時代の音楽を総括しつつ、その後の音楽が辿る道を指し示してもいる。(「アルバム解説書」より)

この解説を読んで聴くとあらためてこの曲集の時空の広がりを再認識します。過去・現在・未来という時間枠を超え、調を変えて変奏されていくこと自体が大いなるドラマであると確信できます。

最後に、他にも「平均律」のCDが多々ありますが、バッハと言えばこの人、グレン・グールド。個性的な音の運びは、聴く者を惹きつけますが、「1Q84」との相性からいうと、ちょっと音が勝ちすぎていてけんかしてしまう感じ。これは独立して”グールド”として別枠で楽しむのがいいと思います。

バッハ : 平均律クラヴィーア曲集 第1巻バッハ : 平均律クラヴィーア曲集 第1巻

アーティスト:グールド(グレン)
販売元:ソニーレコード

バッハ:平均律クラヴィーア曲集 全曲(5枚組)

|

« メロディアス・ライブラリーで田辺聖子さんを訪ねる | トップページ | 決断は― In any moment of decision »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。
野平氏の平均律クラヴィーア曲集、一つの楽器に限定せず、「国境を超えた」と言っておられるとか。私の主張である「自由なバッハ」、「バッハは禅と通底する」に共通したものを感じます。良い情報をありがとうございました。

投稿: fughetta | 2009年7月14日 (火) 21時18分

fughettaさん、はじめまして。
野平氏のこのCDは掘り出し物だと思います。是非聴いてみて下さい。「バッハは禅と通底する」というのは面白いですね。瞑想的ということでしょうか?
これからもよろしくお願いします。

投稿: コニコ | 2009年7月14日 (火) 22時31分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/114487/30498084

この記事へのトラックバック一覧です: バッハ「平均律クラヴィーア」と「1Q84」 :

« メロディアス・ライブラリーで田辺聖子さんを訪ねる | トップページ | 決断は― In any moment of decision »