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2009年9月15日 (火)

「世界は分けてもわからない」

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

福岡伸一氏の本も、これで読むのが3冊目。「世界は分けてもわからない (講談社現代新書)」(講談社)は「生物と無生物のあいだ」の第2弾に当たる本といっていいでしょう。

わたし的には、いままで3冊読んだ彼の本の中で、この本が一番好きです。福岡ワールドが時間をかけて熟成され、それにたっぷりと文学フレーバーがかかっているのが魅力です。

表紙を開くと口絵に何枚かの絵と写真があり、謎めいています。このからくりが本文で次第に輪郭を現していき、論理的な答えを出していくのですが、それがなんともロマンチックです。福岡氏は、分子生物学を愛する科学者であり、詩人だし、哲人だと思えます。

各章の扉には、聖書や小説、エッセイの一節が載せられ、語りを奥深いものにしています。最後の第12章「治すすべのない病」では、福岡氏の敬愛する須賀敦子さんの「ザッテレの河岸で」の文が引用されていました。そこまで読み進める前の道しるべとして、最初の方で「須賀敦子の歩いた道」という見出しのこんな文章に惹きつけられます。第2章「ヴェネツィア、2002年6月」から。

須賀敦子のヴェネツィア。

彼女の文章には幾何学的な美がある。柔らかな語り口の中に、情景と情念と論理が秩序を持って配置されている。その秩序が織りなす文様が美しいのだ。ことさら惹かれたのは、本を書くに至るまで彼女がずっと長い時を待っていたという事実だった。幾何学を可能にしたのは彼女の人生の時間である。彼女の認識の旅路そのものである。彼女の本を読むにつれ、そのたたずまいに引きこまれていった。彼女の歩いた道を彼女が歩いたように歩いてみたかった。彼女が考えたように、自らの来し方を考えてみたかった。彼女が静かに待ったように、私も何かが満ちるのを待ってみたかった。その何かを知りたくて彼女の文章を何度も読んだ。そしてますます彼女への想いが深まった。(55ページ)

この本全体もに通じる彼の文にもある幾何学的な美しさが須賀さんへの限りないオマージュになっている気がします。福岡氏はそれを深く自覚しながら「世界は分けてもわからない」神秘の中に挑んで、世界を分ける分子生物学の研究に打ち込んでいるのでしょう。

ものの視点をあらためて見直させてくれる良書です。

理系だけでなく、文系の若い人にも教養書として是非すすめたい本。もちろん、「生物と無生物のあいだ」を好む方にも必読書といえるでしょう。

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コメント

 福岡氏の本は、実は読んだことがないのですが、須賀敦子さんの文体は、私はとても好きです。

 福岡氏の本も読んでみようかなと興味がわきました。

投稿: mikarin | 2009年9月16日 (水) 20時36分

mikarinさん、こんにちは。福岡先生ファンなので、こんなコメントを頂けると嬉しくなりますよ。是非試しにご一読をhappy01

須賀敦子さんの本を読むと福岡氏ではないけれど、彼女が歩いた道を辿りたくなりますね。トリエステとか、行きたいわ~note

投稿: コニコ | 2009年9月17日 (木) 11時01分

 コニコさん
 こんにちは。私は理系はさっぱりダメで、福岡さんの本も読んだことがありませんでした。でも、雑誌でこの人が須賀さんを好きなことは知っていました。今回コニコさんの記事を読んで、さっそく本屋さんに行って買ってしまいました!ちょうど仕事が一段落したので、これまた偶然「地図のない道」を再読していたところだったんです!今日から福岡さんの本をバッグに入れて通勤します。

投稿: 点子 | 2009年9月18日 (金) 05時35分

点子さん、こんにちは。須賀さんの本と併行してこの本を読まれているのでしょうか。

はじめての福岡先生の本、面白い読書体験になりますように。読後の感想、とっても楽しみにしております。

投稿: コニコ | 2009年9月18日 (金) 18時13分

福岡先生は、10月6日に、アエラビジネスセミナーに登場するようですね。参加料5000円はちょっと高い気がしますけど。

http://www.aera-net.jp/bizseminar/


投稿: mikarin | 2009年9月21日 (月) 07時10分

mikarinさん、情報をありがとうございました。
確かに5千円は高いけど、これはきっと会社費用で参加する方、対象のセミナーだからでしょうね。

すっかり有名人になった福岡先生、学問の垣根を越えてビジネス界にもデビューですねsign03

投稿: コニコ | 2009年9月21日 (月) 23時58分

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