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2009年11月28日 (土)

「若者はみな悲しい」(「All the Sad Young Men」)

若者はみな悲しい (光文社古典新訳文庫)

読書をしていると、ジグソーパズルでキーになるいくつかのピースをみつけ、全体像が見えてくるといった経験と似た思いを抱くことがあります。

今回読んでみたフィッツジェラルドの短篇集もそんな気持ちにさせられる本でした。

若者はみな悲しい (光文社古典新訳文庫)

著者:F.スコット フィッツジェラルド
販売元:光文社
発売日:2008/12/09
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訳者は先日ご紹介した新訳「グレート・ギャッツビー」を出された小川高義氏。「訳者あとがき」にフィッツジェラルドのこの短篇集を訳してから、ギャッツビーの翻訳にとりかかったことが書いてありました。

そして、巻末にこの短篇集の多くが「グレート・ギャッツビー」のための習作、実験作としても読めると解説されてあります。この本が「グレート・ギャッツビー」刊行1925年の翌年に出され、刊行時には短篇9篇すべてが雑誌に掲載済みということを考えると、それらの短篇はギャッツビーを構想する以前、または同じ時期に考えられた作品。それぞれに短篇に“ギャッツビー”を思わせるくだりが散りばめられて、「こういうエピソードからギャツビー、ニック、デイジーが生まれていったんだ」と「メイキング・オブ・『グレート・ギャッツビー』」をみるようです。

とくに冒頭の短篇「お坊ちゃん」(“The Rich Boy”)は、ギャッツビーが憧れる名門の生まれでお金持ちというアンソン・ハンターが主役で、ギャッツビーで語り手になるニックの原型のような語り手が登場することからも、ギャッツビーと似ているといわれる作品。

そして、「赦免」の主人公のルドルフがやんごとなき血筋のブラッチフォード・サーネミントンに想いを抱くシーンは、若きジェイムズ・ギャツが名前を変えて、ジェイ・ギャッツビーになるシーンを彷彿させます。

『常識』では、ヒロイン、ジョンクィル・ケアリーがお金持ちに執着し、デイジーをイメージさせられますし。

そして「冬の夢」(“Winter Dreams”)は、これぞフィッツジェラルドの真骨頂というくらいに美しい文章。たとえばゴルフ場でキャディのアルバイトをしていたデクスター・グリーンが出てくるはじめのシーン。

 四月になると、冬は唐突に終わった。雪どけ水がブラックベア湖へ流れる。気の早いゴルファーは、赤や黒のボールを飛ばして冬を追い立てようとするのだが、雪のほうから消えていく。水ぬるむ風景美など見せるまでもなさそうに、寒い季節は去っていた。
 北国は春が憂鬱なものである。むしろ秋こそが輝かしい。秋になるとデクスターは手を握りしめ、ふるえるほどの力を込めて、他愛もない言葉を心の中で繰り返し、民衆や軍隊を夢想しては、きびきびした指示を発した。十がつは希望にあふれ、それを十一月が勝利に酔う高みへ押し上げた。(91ページ)

アメリカ、ミネソタの四季が目の前に広がり、めくるめくようです。

その他の短篇も、すっかり楽しめました。「グレッチェンのひと眠り」は、ロジャーとトムキンズとの比較が面白く、どんでん返しにびっくり。

「ラッグズ・マーティン=ジョーンズとイギ○スの皇○子」では、フィッツジェラルドの筆は、まるで映画「スティング」のカメラワークのように軽快に進みます。

というわけで、今回のこの短篇集は、ギャッツビーという大きなジグソーパズルを前にして、そのインスピレーションのひとつひとつのピースをみつけたような喜びがあじわえる本でした。

*ちなみに村上春樹が今週「冬の夢」の翻訳本を刊行しています。ワオ!

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