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2010年1月 5日 (火)

「物語論で読む村上春樹と宮崎駿―構造しかない日本」

物語論で読む村上春樹と宮崎駿  ――構造しかない日本 (角川oneテーマ21)

昨日は村上春樹の大ベストセラーとなった「1Q84」の続編が出るという記事を書きました。今日はその村上春樹の小説が世界で幅広く読まれていることの背景を(私にとって)新たな視点から取り上げている本をご紹介します。

物語論で読む村上春樹と宮崎駿 ――構造しかない日本 (角川oneテーマ21)

著者:大塚 英志
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
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2年前にレビューした「キャラクター小説の作り方」の著者、大塚英志氏に再び登場していただきます。

大塚氏いわく、この本は、世界にもてはやされているサブカルチャー文学やジャパニメーションを柄谷行人氏が「それらが世界に届くのは『構造しかないからだ』」(「物語論で読む村上春樹と宮崎駿」13ページ)と一刀両断に切り捨てたことに説得力を感じたとこから発して、この主張を村上春樹と宮崎駿にあてはめて分かりやすく書いたものだそうです。

では、この「構造しかない」という意味は何なのか?この場合の「構造」とは物語構造のことを指し、村上ミ春樹を例に挙げ、その作品が決められた物語論に基づいて物語るという手法を繰り返しているというのです。その手本となったのが「スター・ウォーズ」の製作にも大きな影響を与えたジョセフ・キャンペルの神話論(「千の顔をもつ英雄」)で、第一幕「出立」、第二幕「イニシエーション」、第三幕「帰還」の三部構成になっています。

実はこのベタの物語形式は、ここ最近のファンタジー映画のブームに呼応していてビックリしてしまいます。「スター・ウォーズ」の復活、「ハリーポッター」シリーズ、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ、「ナルニア国物語」シリーズと一気に世界を虜にした映画がそれにあたります。そして、わたしもまんまとその物語に魅了され、夢中になっていきました。これらの物語が決して「構造しかない」とは思いませんが、確かに構造は似ています。

さて、ここで村上春樹氏の「1Q84」の続編を考えると、この構造に則り、やはりBOOK 3がベタに必要だったのか、と勘ぐりたくなります。わたしが読んだ限りではBOOK 1&2でバランスがとれていたのにと思ってしますのです。でも、きっと刊行されたら面白いと思うだろうなと自分で予測がついてしまいます。

大塚氏は、さらに村上氏を「物語メーカー」として定義もしています。ちょっと長いのですが、面白かったので引用します。

 村上春樹は「同時代」のアメリカ小説―ジョン・アーヴィングやスティーヴン・キングやトルーマン・カポーティ、『スター・ウォーズ』や『地獄の黙示録』に共通の構造があることに「同時代としてのアメリカ」を書く前後には気がついていて、そしてその構造を抜き出す際に、キャンベルを明らかに参照している。一方では、キャンベルの「千の顔をもつ英雄」の中で単一神話論の構造に従って紹介されていった古今の神話の一部を「ジャンク」として作中に引用している。つまり構造と素材の双方を借用していくことで村上春樹の中に「物語メーカー」というアプリケーションがインストールされたのである。(同書123ページ)

ここでキーワードになるのが、「ジャンク」ということば。「海辺のカフカ」でジョニー・ウォーカーやカーネル・サンダースといったアニメっぽい陳腐なものが多用されていました。そして大塚氏が指摘しているのが、“村上春樹のオウム真理教事件への過度な「コミットメント」”です。オウム真理教も多様している「ジャンク」の構造が彼自身の小説の方法と酷似していて「合わせ鏡」(125ページ)のようだとしています。

「1Q84」でのオウム真理教を思わせる「さきがけ」教団は、わたしは読後に一番印象に残ったもののひとつでした。大塚氏の言及は、いい悪いは別にしてひじょうに興味深いものです。

この本のラストには、「補論(あとがきにかえて)『1Q84』と村上春樹の再『スター・ウォーズ』化」が載っています。大胆かつちょっとコワイ言及もあり、考えさせられました。

これから「1Q84」を読む人も、すでに読んだ人も、読むか読むまいか迷っている人も是非、この本のご一読をオススメします。

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