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2010年2月 8日 (月)

「仮想儀礼」(上下)

仮想儀礼〈上〉

仮想儀礼〈下〉

 友達に薦められて読み始めたら、すっかり止まらず読み通してしまいました。

上巻は、一大エンターテイメントとなっています。商売と割り切って始めた宗教団体「聖泉真法会」に、面白いように信者が集まっていく様や、その集金システムがリアルに描かれていました。

宗教団体「聖泉真法会」の教祖、正彦は元公務員。物書きに憧れて脱サラしたものの、実は本を出してくれるという出版話は詐欺で、職も家族も失ってしまう。お金も底をついた時に考えついたのが似非宗教「聖泉真法会」。正彦が、信者を獲得していく中でどんなことを感じていくかが、常識人としての視点から描かれていて、今の宗教観だけでなく日本社会の社会観まで鋭く反映しているようで興味深い展開でした。

   想儀礼〈上〉  仮想儀礼〈下〉

著者:篠田 節子
販売元:新潮社
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上巻から名言を少し引用します。

「繊細すぎる感性ゆえ、複雑化した社会では生きていかれない若者たち」などというのは、マスコミの作り出した虚構だ、と正彦は小さく舌打ちした。結局のところ、自分のことに関してだけは、繊細で過敏なのだ。それが精一杯で、他人のことになど関心を払うほどのエネルギーは残されていない。(上160ページ)

「あなたたちは、揃いも揃って、理屈だけ一人前で。どこかで聞いたようなことを言っているけど、あなたたちのやっていることは何?今日一日、何をしているの。いったいだれの役に立っているの。ここに来て、一日しゃべってて、、お祈りの真似事をして、時間を潰していても、物だけは食べているでしょう。そのためにだれが犠牲になっているか、考えたことがある?たくさんの人が働いて、あなたたちの命を養っているのよ。そういうあなたたちは、親への尊敬もなければ、働く意欲もない。自分を養ってくれた命への感謝もない。恥を知りなさい。それのどこが信仰なの」
「おばさんたちのしていることこそ、自分たちの商売繁盛、無病息災を願ってるだけ。本当に苦しんでいる人への思いやりなんて、何もないじゃない。信心すればいい目を見られるなんていうのは信仰でも何でもないわ」
 収拾がつかない。ただ彼らのやりとりが、聖泉真法会だけでなく宗教そのもののあり方についての議論であるような気もする。(上202ページ)

「俗物でいいんだよ」
 正彦は、呻くようにつぶやいた。
「生温いと言われようが堕落しているとそしられようが、常識的な線で経営してこそ教団が存続する。欲望否定は一見、偉そうに見えるが、人間は所詮弱いものだ。締め付けた挙げ句、行き着くのはこういう集団ヒステリーやオカルト殺人だ」(上291ページ)

恵法三倫会の回向法儒のことば
「旧約聖書に限らず、宗教の本質は苛烈なものだ。我々の世界に民主主義はない。根回しも多数決もない。中途半端な教祖は、信者に食われる。半端なのはいけない。信者が食われる前に、こちらが食ってしまうことだ。食われる信者はそれで幸せなのだ。満足して食われていく。そのことは心に留めておいた方がいい」(上450ページ)

などなど、気になることばを並べてみましたが、これが何と下巻の予言のようになっていたんですね。下巻では、一気に人間の心の闇の部分と宗教が結びついていく様子が生々しく描かれます。あまりの迫力に、最後まで読むのにたじろいでしまいそうになりました。そして、その緻密な筆力故にどうしようもない状況に陥っていく登場人物たちの結末があまりにもやり切れない・・・。説得力のある人間像に圧倒され、人間の言い知れないエネルギーが圧縮された時の底知れなさを感じさせる話しでした。

そして、村上春樹の「1Q84」に出てくる「さきがけ」というグループの教祖のことを思い出しました。「1Q84」の中では具体的に「さきがけ」のカルト的内部事情を描いてはいないのですが、この「仮想儀礼」を読んでいると、ある時点で信者たちが教祖にも抑えることのできないエネルギーを持ち始めるという事実があったのではないかと想像してしまいます。

現代の社会の歪み、“宗教”という名のモンスターが見えてくる問題作だと思います。

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コメント

ゴサインタン、夫の押入れ図書館にありました(^^)読んだら次回お会いするとき持っていきまーす☆

投稿: クーネルシネマ | 2010年2月14日 (日) 11時45分

こんばんは。お久です。ご主人様の所蔵をおりしてもよろしいのかしら?
篠田節子さんの本は読み出したら止まらなくなりそうで、またまた掃除ができなくなりそう┐(´-`)┌(ヤレヤレですね~)といって、楽しみにしてま~す♪

投稿: コニコ | 2010年2月14日 (日) 22時06分

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