原書「Death of a Salesman」(ネタバレあり)
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2月の原書がちょっと遅れてしまいました。今回は、原書はじめての戯曲です。前からどんな話しなのか、「セールスマンの死」というタイトルやアーサー・ミラーという作家のことも気になっていたんです。 この劇は、1949年2月10日ニューヨークのモロスコ劇場でエリア・カザンの演出により初演されたもので、60年以上も前の作品なんですね。 Death of a Salesman (Plays, Penguin) 著者:Arthur Miller |
あらすじは…主人公は60歳を過ぎたセールスマン、ウィリー・ローマン。過去には凄腕セールスマンだった彼もすっかり歳をとり、セールスの旅に出ても誰にも相手にされない毎日。将来を嘱望されていた長男のビフやこと流れ主義の次男のハッピー(ハロルド)も独身で自立できないでいる。やがて家族の苦境や仕事の苦悩からウィリーは現実逃避に走り、過去の妄想と会話を始める。何もかもうまくいかず、疲れ果てた彼は、セールスの旅回りをしないですむ仕事につかせてほしいとボスに頼むが、逆にそれを理由に解雇されてしまう。家でも息子と口論になり、ウィリーは自殺を図ってしまう…
この劇の構成は、ウィリーがセールスの旅から帰った夕方から翌日の夜までを全二幕で一気に語ります。そして、間にウィリーの過去を知ることのできるフラッシュ・バックが効果的に挿入。
戦後のアメリカの家族というと「パパは何でも知っている」というドラマに見られるような豊かで明るい幸せな家庭を想像してしまう私ですが、この劇はそんなイメージと正反対。“アメリカン・ドリーム”を実現させようと頑張ってきた中流階級の家族がたどり着いたところは、アメリカの夢の幻滅だったといれるかもしれません。この劇が書かれた、今から半世紀も前に、資本主義の苛烈な販売競争がもう始まっていたという事実は重いです。ウィリーがもとめた中流の幸せ―マイホームを買って、一つの会社に勤め上げささやかだけど、のんびりした老後を夫婦で過ごす”というシナリオは、無残にも砕かれる悲劇が展開されています。
“勝ち組、負け組”ということばが踊る日本の社会でも、中流というクラスが先細って行き、貧困とセレブという二極化が進んでいます。まるでこの劇の時代の状況が日本の家族の影も投影しているような気がしました。
苦しい家計をやりくりして我慢強い奥さんのリンダも印象深いです。最後のページ、夫ウィリーのお葬式でリンダがいうセリフは本当に胸を突きます。
…Willy, dear, I can't cry. Why did you do it? I search and search and I search, and I can't understand it, Willy. I made the last payment on the house today. Today, dear. And there'll be nobody home. [A sob rises in her throat.]…
ウィリーが自殺したことでおりた保険金で家のローンを完済したということがわかるのですが、やっと自分のものになったマイホームには誰も住む人がいないというラストです。
また、この劇で取り上げられている“自立できない子どもたち”、“大人になれない親”という要素も現代社会が抱える大きな問題です。
全体に読みやすい英語で100ページちょっとという長さですが、ずしんの中味の濃い内容で、考えさせられました。演劇史上に残る不朽の名作といわれるのも納得です。
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