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2010年3月31日 (水)

「読書からはじまる」

読書からはじまる (NHKライブラリー) 読書からはじまる (NHKライブラリー)

著者:長田 弘
販売元:日本放送出版協会
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今日は月末で3月の原書「The Commoner」を紹介するところですが、年度末なので、こちらをレビューします。

10月からはじめた“ミセスの本棚”に掲載したコニコのブックレビューも今月でおしまいです。その締めくくりとして“読書を考える”とっておきの本として選んだのが詩人、長田弘著の「読書からはじまる」です(ミセスの本棚の方もみていただけると嬉しいです)。

まずこの本を読んで印象に強く残るのは、2章の「読書のための椅子」です。前述のブックレビューとも重なるのですが、長田氏が具体的に薦める椅子はこうです。

わたしが個人的にもっとも好きなのは、北米のコネティカット州でつくられた木の椅子で、木の椅子でもまったくクッションを必要としないよう、たくみに窪みをもたせた椅子で、何時間座っていても疲れません。(中略)ジョージ・ナカシマという世界に知られた椅子つくりのこしらえた、本を読むための椅子があります。むだのない手づくりの木の美しさが息づいているのがナカシマの椅子の特徴ですが、本を読むための椅子というのは、そのじつは片側だけに肘掛のあるラウンジョ・チェアです。印象的なのは、その椅子の腰掛けの板のデザインで、左右に浅く開いた窪みはちょうど本の見開きのように見えることです。(単行本「読書からはじまる」41ページ)

この文を読むと、長編を時間をかけて読めるいい椅子を手に入れたいものだと、こころから感じてしまいます。文庫の表紙に描かれている椅子がまさに、この引用に出てくるジョージ・ナカシマさんの椅子のようです。勉強机についている、いかにも前屈みになって勉強用にすわる椅子でなく、コンピューターの前にあるタイプする椅子でもない、居心地のいい椅子をひとつ持つと、自分の時間がどこまでも本と付き合える時間になる気がします。

時間といえば、5章の「共通の大切な記憶」の中で、詩人らしいこんな言葉もみつけました。

 自分のもっている時間というものは、自由になる時間というのではないのです。自由に何かをする、何かができる時間というのではないのです。
 そうではなくて、自分のもっている時間の井戸から、記憶の水を汲みあげるための時間が、一人の「私」という空のバケツを満たす、充実の時間であるだろうというふうに思うのです。(同上116ページ)

また、長田氏が本の楽しみとして、再読することをあげているのも興味深いものでした。「本は読んでも忘れることができる、忘れたらもう一回読めばいいという文化なのです。また忘れたらさらにもう一回読めばいい。本というのは読み終わったら終わりではないのです。」(同上28ページ)とあるのも、歳を重ねる今になってひじょうに力強い言葉です。最近とみに情けないほど忘れっぽくなった私には、“また読めばいい”という気楽さが恵みです。

自分ひとりの記憶はたかが知れています。すぐに空になってしまうバケツをたゆまず満たしていく行為―読書。それは、本が単なる情報ではなく、人が紡いできた共通の記憶の集大成であるという畏敬をあらためて感じさせてくれます。

明日から新年度。「読書からはじめる」、この言葉を記しておきたいと思います。

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コメント

こんばんは。
私もこの本大好きです。手元において何度も読み返したりします。
それからジェーンオースティンとイギリス文化のラジオ新番組も楽しみですね! わくわく。全部聞けるかどうかは自信ないのですが、とりあえず録音モードです。テキストはまだ買ってないのですが、やっぱり買おうかな!
またコニコさんの記事を楽しみにしてます。

投稿: 点子 | 2010年4月 3日 (土) 22時15分

点子さん、おはようございます。
関東地方の今日は、太陽が拝めて桜も活き活きと咲いています。
新しい年度も始まって、またお忙しい毎日ですね。
点子さんの読書記事も心から楽しみにしていますcherryblossom

投稿: コニコ | 2010年4月 4日 (日) 07時47分

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