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2010年4月 9日 (金)

「女神記」

女神記 (新・世界の神話) 女神記 (新・世界の神話)

著者:桐野 夏生
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去年の秋に書いた「神話がわたしたちに語ること」ではじまる『世界の神話全集』の中から、「女神記」を読みました。日本を代表して神話の世界を描いたのは桐野夏生さん。2009年11月に出版ですので、先日レビューした2008年5月出版の「東京島」とほぼ同時期。精力的に書かれているな~と感服します。

面白いのは、「東京島」も、この「女神記」も“島”という、外界から閉ざされ孤立した世界からの脱出というモチーフが出てくること。桐野さんは「東京島」を書きながら、「女神記」の主人公、ナミマを海蛇という島に閉じ込める状況を考えたのでは、と思えてきます。

お話は・・・海蛇の島に生まれた姉妹.―長じて姉のカミクゥが“光”の大巫女になり、妹のナミマが“闇”の運命を受け継ぐこととなります。しかし、ナミマが島の掟で定められた運命に逆らい、愛してはならない男、マヒトと結ばれ身ごもり、島を脱出します。その旅の途中で女の子を産むのですが、なんとナミマは一緒に逃げたマヒトに殺されてしまいます。そして、死んだナミマの魂が彷徨い着いたところがイザナミが治める黄泉国。ナミマは、その国の女神イザナミに仕えることになります。実は、“死”をつかさどるイザナミは、“生”を産みだすイザナキを嫉妬し、恨み、絶えることのない怒りを持ち続けています。運命は巡り巡って、イザナキとマヒトは黄泉の世界へとやってくることになるのですが・・・。

このお話の基になるのは、「古事記」なのですが、神と人間が絡み合い、憎しみや愛情をぶつけ合う様がすさまじく描かれています。かつての妻と夫との激しい争いは、まさに戦争。黄泉の国に追いやられてしまったイザナミが、まず仕掛けます。

「愛しいイザナキ様。あなたは何てひどい仕打ちをなさるのでしょう。私を閉じ込めて、さらに離縁しようというのなら、こちらにも考えがあります。私はこれからあなたの国の人間を、一日に千人縊(くび)り殺してしまいますよ」

イザナミの言葉に対し、イザナキは答えた。
「愛しいイザナミよ。あたながそうすると言うなら、私は一日に千五百の産屋を建てましょう。つまり、一日千五百人の新しい命が生まれるのです。」(182ページ)

争いの果ては、神であるイザナミが、不老不死でなくなったイザナキを見殺しにするというもの。人間のナミマもマヒトへの怨みが消えたかどうかわからない。神であり、女であるイザナミの強烈な“怨”は、自らが死んでも、そして怨んでいる相手が死んでも決して消えないという底知れなさが、桐野節、最高潮でした。これは、読み応えあり。

ラストも、最初から積み重ねてきた女の業が、はっきりと言葉であらわされて、突き抜けたものがありました。語り手のナミマが、最後の締めを故事らしくまとめるのですが、その語りにも説得力があります。「イザナミ様こそが、女の中の女。イザナミ様の蒙(こうむ)られた試練は、女たちのものでもあります。女神を称えよ、と私は暗い地下神殿の中で叫ぶのでございます。」(251ページ)

今まで私が読んだ『世界の神話全集』、5冊の中でいちばん読みやすく、拡がりと深みがあった神話でした。

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