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2010年6月10日 (木)

「ケンブリッジ・サーカス」

ケンブリッジ・サーカス (SWITCH LIBRARY) ケンブリッジ・サーカス (SWITCH LIBRARY)

著者:柴田 元幸
販売元:スイッチパブリッシング
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エッセイ集であり、連作短編集でもあるという不思議な味わいのある本。タイトルにもあるように、イギリスを含むさまざまな都市――東京、ロンドン、ニューヨーク、オレゴン、の紀行集としても楽しめます。

表紙だけを見ると、ポール・オースターか誰かの本を柴田氏が翻訳した本が出たのかしらと錯覚しますが、この本は柴田氏の本です。

柴田氏は、文芸雑誌『モンキー・ビジネス』の編集もされています。彼の本を手にしたのは10年前。最初の出会いは「佐藤君と柴田君」のリレー・エッセイ集。翻訳家として有名な柴田先生ですが、翻訳でない文章もすこぶる面白い!

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“読むより翻訳するのが早いらしい”と噂になるくらい、膨大な量の翻訳を出されていて、柴田先生が実は5人くらいいるのではないかと思うくらいですが、その合間に、こんなにユーモラスな、力が抜けるようなサクサクと読める文章をお書きになるなんてね、嬉しいです。

それにしても、だんだんと柴田先生のエッセイは、“幽霊度”が高くなっているような気がします。そういえば、何年か前に「死んでいるかしら」なんてタイトルのエッセイもありました。「ケンブリッジ・サーカス」の冒頭、「六郷育ち―東京」は、柴田先生の名訳、ダイベックの「シカゴ育ち」を思い浮かべながら読みました。幼稚園の頃、中学の頃、そんな過去の自分との思い出と出会いが交錯して、読み手も、今の柴田氏とともに時間の溝に落ちて沈んでいくような。しまいには誰が幽霊(もちろん全然怖くない幽霊です!)かもわからなくなってきて、最後に“永遠の出前おやぢ”ののびたラーメンではなくチャーハンとギョーザを食べるというオチ。この本の中で一番短編小説っぽい章です。

そして一番好きな章が2章の「僕とヒッチハイクと猿―ロンドン・リバプール」。イギリス留学というと、何かアカデミックなはなやかさがイメージされますが、この章で語られるイギリス体験はあまりぱっとしない界隈の、だいぶぱっとしない話で、妙にリアルで良かったです。“Japanese!Very Clean!”では、イギリスの食堂でおばあさんにChineseと間違われた話がありましたが、私も大学卒業時にショート・ステイしていた先のイギリス人の子どもにChineseと間違われ、なぜかJapaneseといったら、Chinese & Japaneseとからかわれたことを思い出しました。結構、変な体験ってしているもんですよね。

巻末には、嬉しいおまけとして「特別付録」が付いています。先生直筆の“夜明け”が読めます。

寝る前に少しずつ読んで、夢で懐かしいあなたに出会ってくださいね。

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