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2010年8月30日 (月)

原書「The Yellow Wallpaper」

The Yellow Wallpaper (Dover Thrift Editions) The Yellow Wallpaper (Dover Thrift Editions)

著者:Charlotte Perkins Gilman
販売元:Dover Publications
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7月の原書のレビューを今頃いたします。

この短編が書かれたのは1892年のアメリカ。何の予備知識もなしに読んだ時は7年前のことでした。今回、英語の読書会で再読。

前回読んだ時の印象は語り手である女性が、神経症に悩まされていて、夫である高名な医師により、人里離れた家で安静療法という名の下に監視されるというものでしたが・・・。

再読して、さらに主人公が精神病院の隔離病棟にいるようなイメージを持ちました。書くことも、読むことも、そしていろいろなことを想像することも禁じられている主人公は、やがて精神に異常をきたしていき、ついに彼女が“黄色の壁紙”に現れる女と同化していくというホラー映画のような展開でした。

読書会では、この語り手の女性が、もっと夫に自分の意見を言って、きちんと話し合えばいいのでは、という意見が出てました。うーん、果たして、偉いお医者さんと患者という力関係がで、対等に話すことができるかどうか。

思ったのは、このお話の中で語り手が禁じられている、書くこと、読むこと、想像すること(つまり彼女にとっては仕事をすること)への執着が、読み手にとってどのくらい大事かでも、この短編の捉え方が大きく違うような気がします。私には、これらのことは私にとっても彼女にとっても精神の源であり、これを禁じられることは耐えられないと共感できます。

また、この20世紀直前のアメリカで女性が社会的にどんな立場だったかも、興味深いところ。ギルマンには、「アンクル・トムの小屋」(1851年)を書いたストウ夫人が大叔母にあたり、書くことや意見を言うことが自由な環境で育っていたようなので、この短編の語り手のような状況下では、気が変になっていくのも説得力があります。

語り手にできることは、唯一、安静にしている部屋の黄色い壁に何か意味を読み取ることだったのでしょう。壁の中に見出した女は、やがて壁から抜け出し、家の外を這うようになり、いつの間にか語り手自身も部屋に鍵をかけて這うようになるという奇妙さ。そして、それを見た夫は…

"What is the matter?" he cried.  "For God's sake, what are you doing!"
I kept on creeping just the same, but I looked at him over my shoulder.
"I've got out at last," said I, "in spite of you and Jane.  And I've pulled off most of the paper, so you can't put me back!"
Now why should that man have fainted?  But he did, and right across my path by the wall, so that I had to creep over him every time!

気絶してしまったんですね。このラストで閉じ込められた這う女と同化した語り手が、倒れた夫の上を這っていくという不気味なエンディングです。これをフェミニズム的に解釈すれば、ある意味、女性の勝利といえないでもないですが、語り手は気が変になっていることを考えると、正気で勝利したとは言えません。なんとも不思議なストーリーです。

たまたまみつけたレビューで、この話と「ジェーン・エア」を比べているものがあり、面白く読みました。この「黄色い壁紙のある部屋」との「ジェーン・エア」が最初に閉じ込められる赤い部屋との比較や、語り手の夫の名前がジョンなのと、ジェーンをいじめるいとこの名前がジョンなのも類似点などが書かれていました。また、この短編のゴシック小説を思わせる書き出しは、「ジェーン・エア」のソーンフィールド邸を思わせます。

今、この短編は、日本ではあまり読まれていないようですが、本場アメリカでは、どういう読み方がされているのでしょうか。時代とともに読まれ方が変わってきたし、これからも変わっていくだろう不思議なお話でした。

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