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2010年10月26日 (火)

「バベットの晩餐会」翻訳本くらべ

バベットの晩餐会 (ちくま文庫) バベットの晩餐会 (ちくま文庫)

著者:イサク ・ディーネセン
販売元:筑摩書房
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こちらはアマゾンで手に入ります。

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「バベットの晩餐会」 アイザック・ディネーセン 岸田今日子訳 (シネセゾン)。こちらはちょっと手に入りにくいかも。

先月英語で読んだ「Babette's Feast」の翻訳が2つ出ているので比べてみました。

同じ作者によるのに、まず名前が違いますね。ディーネセンの自伝的映画「愛と哀しみの果て」のレビューでも名前のことにふれましたが、今回は、彼女カレン・ブリクセンがどういうふうに書いていったかを辿ってみます。ちくま文庫「バベットの晩餐」のあとがきには、こんな件が載っていました。

彼女はほとんどの作品を英語とデンマーク語で書き、英語版はイサク・ディーネセンという男性名で、デンマーク語版はカレン・ブリクセンの名で発表した特異な作家である。大半の作品をまず英語で書いてからデンマーク語に書きあらため、英語版とデンマーク語版をほぼ同時に出版している。(中略)この作品集も、アメリカ、イギリス、デンマークで同時に刊行されたが、英語版とデンマーク語版の「バベットの晩餐会」のあいだには、かなり大きな違いがある。デンマーク語版のほうがかなりの分量の記述が随所に加えられている。(229ページ)

さらに、このちくま文庫「バベットの晩餐会」は、底本がデンマーク語であり、シネセゾン「バベットの晩餐会」は、英語版からの翻訳ということがわかりました。

ふむふむ、底本が違っているので、丹念に比べてみると細かいところがちょっとずつ違っています。特に数字が微妙に2年くらいずれたりしています。

なかでも違いが大きかったのが、ラスト近くに挿入された逸話。

マチ―ヌは、アフリカで伝道を行っていた父の友人が以前にしてくれた話をふと思い出して不安になった。その伝道師は象のように大柄な黒人の王様の腹痛を直してやったところ、王様はその返礼に彼を祝宴に招いてご馳走してくれた。数日して、伝道師は原住民の召使から、彼があのとき食べたのは、キリスト教徒の治療師に敬意を示すために出された王様の幼い孫のひとりだったということを知らされたのだった。マチ―ヌの目にはバベットの姿がすっかり黒ずんで見え、黒人の王様のように残酷に映った。彼女はベアレヴォ―の善良なキリスト教徒たちに数時間のあいだ、知らぬうちに、人生のよるべと老年の避難所を食いつくさせていたのだ。マチ―ヌは身震いすると、両手を握りしめた。(ちくま文庫 デンマーク語版 88ページ)

マチーネは、アフリカで伝道をしていた父の友人のひとりから聞いた話を思い出した。彼は、年老いた酋長の愛妻の命を助けた。酋長は、感謝の気持ちをこめて、豪勢な食事に彼を招いた。ずっと後になって、彼が食べたものは酋長の小さな太った孫で、偉大なキリスト教の医者のために料理されたのだと、黒人の召使いから聞いて知ったのだった。彼女は身震いした。(シネセゾン 英語版 65ページ)

比べてみるとデンマーク語版が細かいことに気がつきます。ディーネセン自身が書いた同じ物語でも、言葉が違うとその肉づけも違ってくるんですね。

もしかしたらデンマーク語では細かいニュアンスを出した必然性があるのかもしれませんがデンマーク語を解さないので、どちらが好みかと聞かれれば、より言葉を削ぎ落とした英語版の方が、私は好みです。

英語の原書を読んで、映画を見て、翻訳本を2冊読んでも、この物語は飽きない、というよりも読むたびに発見があり、その物語の奥行きの深さに驚かされます。

ついでながら、シネセゾン「バベットの晩餐会」では、巻末に「バベット事典」というものがついていて、その中で“当時の1万フランの価値”を言い当てています。ほぼ同じ時代に書かれたエミール・ゾラの「居酒屋」から推察して500万円から1千万円の間くらいとのこと。それがカフェ・アングレで晩餐した時の12人分の料金だとすると、つまりひとりの食事代が70万円くらい。ワ~オです。

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