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2011年2月 7日 (月)

「マボロシの鳥」

マボロシの鳥 マボロシの鳥

著者:太田 光
販売元:新潮社
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爆笑問題の太田光さんの初小説。大好きな短編集ということもあり、読むのをとっても楽しみにしていました。

9つの短編は、それぞれ全く文体が異なり、まるで寄席にいったようなバラエティ満載でした。冒頭の「荊の姫」は、おとぎ話。「タイムカブセル」、「マボロシの鳥」は、ファンタジー。「人類諸君」は講談調。「魔女」や「冬の人形」は、家族と大切な人との絆を語った話。「ネズミ」や「奇跡の雪」は、今の世相を反映した悲劇。そして、最後は、太田さんの愛してやまない宮沢賢治へのオマージュ「地球発……」。太田さんが読み綴ってきた読書履歴がたどれるような文章で、大好きな作家への温かな気持ちが伝わってきました。ゲーテの「ファウスト」も登場して、私も嬉しくなっちゃう。

タイトルの「マボロシの鳥」が象徴する、夢であったり希望であったり、自由だったりが、最後にはパタパタと空に羽ばたいていきます。太田さんって、こんなにも浪漫を持っている人なんだって思ってしまいます。でも、その鳥が羽ばたいた後に残された人間は、深い想いを抱えて果てるという結末が多く、その人たちが子どもだったり、若い人だったりで、切なくなります。果てていった人の想いや記憶を読者にきちんと覚えていてほしいという願いが感じられ、読み終えてしみじみしました。

中でも秀逸な作品は、「奇跡の雪」です。表紙に描かれたナイフをポケットに持つアザミが主人公。舞台は砂漠の町。アザミが、大国のこと、自分たちのこと――大国は、「自由」という名の猛獣を世界に放ち、自分たちは「正義、聖戦」という名のもとに殺人を続けるという世界――を薄汚れた世界として感じ、消えてなくなりたいと願ってしまう話。「あの同時多発テロ事件が10年経って、こういう話に物語られるなんて」と複雑な思いになります。

短編は、長いものでも80ページ余り。是非若い人に読んでもらいたい本です。娘にも「是非読んでみて」と薦めました。

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