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2011年6月 6日 (月)

「シューマンの指」(ネタバレ少しあり)

シューマンの指 (100周年書き下ろし) シューマンの指 (100周年書き下ろし)

著者:奥泉 光
販売元:講談社
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この本、だいぶ前の「王様のブランチ」ブックコーナーで紹介されて、読んでみたいなと思っていた本です。

表紙のピアノの鍵盤には血痕が。なにやらサスペンスの予感。

主人公の里橋優は、美しき天才ピアニスト永嶺修人の面影を生涯追い続け、自らも姿を消すという結末。

修人(まさと)は、シューマンを熱烈に慕う音楽家であり、演奏者であり、批評家でもあります。読者は、ふと気付きます。修人とは〈シューマン〉をもじった名前だということを。

そして、彼ら二人がつくる「ダヴィッド同盟」なるものも、シューマンが1837年に作曲したピアノ曲集『ダヴィッド同盟舞曲集』からとったものだとわかります。「ダヴィッド同盟」というのは、

シューマンが考え出した架空の団体であり、保守的な考えにしがみついた古い芸術に対して、新しいものを創作するために戦っていく人達であり、この作品の他にOp.9の『謝肉祭』にも登場する。ここではフロレスタン(F)オイゼビウス(E)の2人が主役である。前者は明るく積極的な「動」を象徴し、後者は冷静で思索的な「静」を象徴する人物であるとされるが、この2つの性質はシューマン自身の二面性を表しているものに他ならない。(ウィキペディアより)

つまり、このグループが架空のものというであり、その曲集の大きな特徴が2面性にあるということが重大な伏線になっていきます。そして夜の学校で起こる殺人事件、失われたピアニストの指とシューマンの音楽を絡めながら物語は進みます。

シューマンの曲に馴染みのなかった私ですが、今年のラ・フォル・ジュルネがロマン派を取り上げたこともあって、ロマン派のことを語っている個所は、説得力がありました。

ロマン派音楽の特徴の一つはその物語性にある。これはオペラに機嫌を持つので、その意味では、バロックこそが最も物語的だといいうるし、古典派にも当然ながら物語性は色濃く刻印されている。だが、ロマン派以前の音楽が、どこかで神話の輝きを帯びた叙事詩的な性格を備えていたのに対して、ロマン派は、近代文学と同様、個人の感情や内面の葛藤を物語の軸に添えるところに特色がある。だからこそロマン派音楽は、演奏者や聴き手の「感情移入」を容易に許す。物語が感情を揺さぶり、心から溢れ出す感情が物語を産み出す――。その果てしのない循環のなかで人は音楽と戯れる。(105ページ)

そして、なんと前回の「ヴィオラスペース 2011」で演奏された、シューマンがハイネの詩を歌曲にした《詩人の恋》も出てきました。その曲の形容が魅力的―「第一曲のピアノ前奏は、まるで、音楽室の扉をあけたら、ふっと聴こえてきた音楽のようだ」(205ページ)というのです。

ただ、ラストの8ページ、主人公の妹の手紙は、「え~、そうなの~」とサスペンスを一気に冷ますようなところがあって、個人的にはここは蛇足ではなかったかと感じました。

それまでのシューマンと修人を重ねていったイメージは読者を惹きつけるものがあっただけに、ちょっとだけ残念。でも、筆者によるシューマンの音楽への愛がとてつもなく深いことがわかる物語でした。シューマン・ファンにはたまらないと思いますよ。

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