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2012年1月14日 (土)

百年文庫42「夢」

ポプラ社が「百年文庫」という名短編シリーズを出しているのを発見。シリーズのうたい文句は“3人の作家が響き合う、漢字「一文字」のアンソロジー”――しゃれています。これも、新しい出逢いだわ。前回書いたわたしの「2012年という本」にも記すべきものになりそう。

前漢100冊のラインナップのうち、42巻目「夢」を手に取りました。文字が大きくて読みやすい。新書版でしかも150ページと持ち歩くのに楽。この本で響き合う作家たちは、オーストリアの作家、アルフレッド・ポルガー(「すみれの君」)、三島由紀夫(「雨のなかの噴水」)、そしてヘミングウェイ(「フランシス・マカンバーの短い幸福な生涯」)。

中でも三島由紀夫の「雨のなかの噴水」の響き方は格別でした。

 噴水とその池はいつも立ち騒いでいるので、水に落ちる雨足はほとんど見分けられなかった。ここにいて時折耳に入る音は、却って遠い自転車の不規則な唸りばかりで、あたりは噴水の水音が、あんまり緻密に空気の中に織り込まれているので、それと聴耳を立てれば別だが、まるで完全な沈黙に閉ざされているかのようだった。
 水はまず巨大な黒御影の盤上で、点々と小さくはじけ、その分の水は、黒い縁を伝わって、絣になって落ちつづけていた。
 さらに曲線をえがいて遠くまで放射状に放たれる六本の水柱に守られて、盤の中央には大噴柱がそそり立っていた。
 よく見ると、噴柱はいつも一定の高さに達して終わるのではない。風がほとんどないので、水は乱れず、灰色の雨空へ、垂直にたかだかと噴き上げられるのだが、水の達するその頂は、いつも同じ高さとは限らない。時には思いがけない高さまで、ちぎられた水が放り上げられて、やっとそこで水滴に散って、落ちてくるのである。
 頂きにちかい部分の水は、雨空を透かして影を含み、胡粉をまぜた鼠いろをして、水というよりは粉っぽく見え、まわりに水の粉煙りを纏わりつかせている。そして噴柱のまわりには、白い牡丹雪のような飛沫がいっぱい躍っていて、それが雨まじりの雪とも見える。(39ページ)

あらためて三島由紀夫の流麗な筆致に驚いてしまいました。あまりに素晴らしく、読み終えて、すぐにもう一度再読しました。

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