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2014年11月12日 (水)

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」のヤスミンカ

先日観に行った北斎展で思い出したのが、米原万里さんが書いた本の中のヤスミンカ。彼女の随筆「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」の一篇に「白い都のヤスミンカ」という話がありました。

万里さんが少女時代にプラハの学校で一緒だったヤスミンカ(ヤースナ)は、北斎に憧れる絵が上手で冷静沈着な少女。

万里さんは、大人になってヤスミンカの祖国、ユーゴスラビアの民族紛争を聞いて、彼女の安否を訪ねることにします。

幸い、ヤスミンカはベオグラードで幸せな家庭を築いていました。
万里さんは、おみやげに北斎の浮世絵を彼女に渡すと、彼女は今の自分の生活をこう語るのでした。この場面のヤスミンカとマリの会話には胸が締め付けられます。

「この戦争が始まって以来、そう、もう5年間、私は家具をひとつも
買っていないの。
食器も。コップひとつさえ買っていない。店で素敵なのを見つけて、
買おうかなと一瞬だけ思う。
でも、次の瞬間は、こんなもの買っても壊された時に失う悲しみが
増えるだけだって思いが被さってきて、
買いたい気持ちは雲散霧消してしまうの。それよりも、明日にも一家が
皆殺しになってしまうかもしれないって。」

「ヤースナ!」

「なにもかも虚しくなるのよ・・・この5年間、絵も一枚も買っていないの。だから、マリが買ってきてくれたホクサイの版画はうれしかった」

ヤースナは、先ほどの包みを開いて、絵を高く掲げた。

「もし、爆撃機が襲来したら、これだけは抱えて防空壕に逃げ込むからね」

「そんな!絵なんかより命の方がどれだけ大切か。死んじゃったら、絵を楽しみこともできないでしょう。生きていれば、絵を失っても、絵を見たときの感動は想い起こせる」

「うんうん、マリはいいことを言う。明日、市の現代美術館に行こう」(289ページ)

日常的に心から絵を愛でたり、音楽を楽しんだりできる生活は、平和だからできること。
芸術の秋に世界の紛争地のことを想いました。

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